それを背負うのは、私だけでいい
最後の機体の解析を始めて十分ほどしたところで、再び透花から通信が入った。
『湊人くん、お疲れ様。今、どんな感じか教えてもらってもいいかな?』
「ほとんどの機体のプロテクト解除に成功したよ。……残りは、あなたの乗る機体だけだ」
『かなり順調だね。さすが湊人くんは優秀だよ』
「……そんなことを言うために、わざわざ通信を入れたんじゃないでしょ?」
『……私たちが乗っている機体の高度が、徐々に下がり始めているの』
「………………………………!!」
『……焦らせるようなことを言うのは忍びないのだけれど、多分もう時間がない』
「……少なく見積もっても、あと十五分はかかるよ」
『十五分か……。柊平さん、どうかな?』
『……ギリギリ、間に合うかどうかというところだと思います』
その言葉を聞き、湊人のキーボードを叩く指、そしてマウスを持つ手に震えが走る。
この状況になり、改めて自分の指先にかかっている”重み”を理解したのだ。
『湊人くん、今、怖い顔をしているでしょう』
「は……?」
『見なくてもわかるよ』
透花の発言に、湊人は言葉を失ってしまう。
それは、この緊急事態には相応しくないものだった。
『湊人くんは、いつもみたいに余裕の笑みを浮かべて、自分のやるべきことをやってくれればいいんだよ。自分の指先に、多くの人命が委ねられているなんて考えないで。そういうのを背負いこむのは、隊長である私の仕事なんだから』
命の危機に晒されているというのに、透花はいつもと変わらず微笑んでいるのだろう。
通信機越しに声を聞くだけでも、それは容易に想像できた。
湊人は彼女の言葉を頭の中で反芻しながら、深呼吸をする。
自然と、震えは止まっていた。
「……十分で、プロテクトを解いてみせるよ」
『うん! それでこそ湊人くんだ!』
「……必ず成功させるから、死なないでよね」
『任せておいて! 私は、絶対に死なないよ』
透花が、何を根拠にそこまで言い切れるのか湊人には分からない。
だが、彼女がそう言うと、どんな不可能なことでも実現できそうな気がしてくるのだ。
通信を切ると、湊人はモニターを睨みつけた。
そこには、先程までの焦燥に駆られた青年の姿はない。
集中すると、鋭い眼差しで画面と向かい合うのだった――――――――――。




