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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第五話 菜の花から溢れ出る
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僕にしかできないこと

「すごかったです……! まるで、ボールが足に吸い付いてるみたいでした……!!」

「そうか? 自分ではあんまりわかんないもんだけど、ありがとな!」


 興奮気味に語る晴久に、雅紀は晴久お手製のオニギリを頬張りながら答える。

 今日は一日に渡って練習があるため、現在はお昼の休憩中なのだ。

 二人が最後に一緒に食べるものとして選んだのは、晴久が作ったお弁当だった。


「あんな風に速く走れたら、とっても気持ちがいいんでしょうね……」


 昨夜の予定通り、晴久は午前中の練習を見学した。

 雅紀のスピードやテクニックは、素人目から見てもズバ抜けたものだった。

 風のように速く、自由にプレイする雅紀の姿を思い出しながら晴久が呟く。


「確かに、ディフェンダーを抜いてゴールを決めた瞬間は、めちゃくちゃ気持ちいいな!」

「……僕には一生見ることのできない景色なので、少し羨ましいです」


 晴久の言葉を聞き、雅紀は数日前に彼から聞いた話を思い出した。

 昔から体が弱かったため、運動らしい運動はしたことがないらしい。

 晴久にとってサッカーのような激しい運動は、体に負荷をかけるものでしかなかった。

 それ故に、現在の仕事でも他の隊員たちのサポートに徹していると。

 一人で任務に出たのは今回が初めてだということも、晴久は話していた。


「でも晴久は、俺には作れないような美味しい料理を作ることができる」

「……こんなのは、誰にでもできることですから」

「そんなことねえよ!!」

「雅紀くん……?」


 雅紀の瞳は、この一週間で見せた中で一番まっすぐなものだった。

 それは、先程の練習中よりも真剣である。


「確かに俺がプレイしてシュートを決めると、たくさんの人が笑顔になる。でも俺は、晴久にしか笑顔にできない人っていうのも絶対にいると思う」

「……そうでしょうか?」

「ああ! 間違いねえよ! だって俺、お前の料理のおかげでこの一週間毎日元気にプレイできた! 監督からも、ここ最近で一番調子がいいって褒められたんだぜ!」

「……そうだったんですね。それは、とても嬉しいです」

「だから、そんな風に暗くなんなって! お前が見れない景色は確かにあるかもしれない。だけどそれって逆に言えば、晴久にしか見れない景色もあるってことだろ?」


 そう言った雅紀の笑顔は、まるで太陽のように眩しいものだった。

 彼の笑顔と言葉に元気付けられた晴久は、いつものような穏やかな笑みを浮かべる。


「……そうですね。僕は僕らしく、自分にしか見れない笑顔や景色を大切にしたいです」

「おう! みんな違ってみんないい、だな!」


 気が付くと、お昼休憩終了の時間が迫ってきていた。

 雅紀は、急いで残っていたお弁当を胃の中に詰め込む。

 晴久は午後の練習は見学せずに一色邸に戻るため、ここでお別れなのだ。


「そろそろ練習が始まりますね。僕はこの辺で失礼します」

「ああ。この一週間、本当にありがとな!」

「いえ、お役に立ててよかったです。簡単に作れそうなレシピをいくつか書いて置いてきたので、よかったら作ってみてくださいね」

「そんなことまでしてくれてたのか! 今度絶対作ってみる!」

「はい。作ったらぜひ感想を聞かせてくださいね」

「わかった。……なあ、晴久」


 帰るために立ち上がった晴久に、雅紀は声をかけた。


「どうかしましたか?」

「勿論自炊は頑張るけどさ、お前の料理が食べたいなーって思う時もあると思うんだ」

「それはありがたいですね。いつでも連絡してください」

「……そしたら俺、毎日連絡しちゃうよ。だってお前の料理、すっごくおいしいんだもん! でも、お前にはお前の仕事があるだろ? だからさ……」


 ここで二人は、二つの約束をする。


「わかりました。これからも雅紀くんの活躍を、心から願ってます」

「ああ、俺もだよ。またな!」

「はい、また会いましょう」


 そして二人は別れ、それぞれの日常へと戻っていくのだった――――――――――。

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