視線で人は殺せるか
管制室のモニター前にいる湊人に、再び透花から通信が入った。
「やあ、透花さん」
『湊人くん、管制室に入れた?』
「うん。今、モニターの前にいるよ。まあ、緊急事態に僕みたいな若造が突然現れて情報をよこせって言ったんだから、よくは思われていないけどね」
『……大丈夫?』
「いやあ、久々に人を殺せそうなくらいの視線を浴びせられたよ。でも、こういう人たちを自分の力で黙らせるのって快感じゃない?」
『大丈夫そうだね。いつもの湊人くんだもの』
「まあ、それくらいの洗礼は受けたけど、正直僕に構ってる暇なんかないよね。だって……」
「どうなっているんだ!? なぜこのプロテクトを解けない!?」
「解いたところでどうするんだ!? バックアップのデータも全て消えているんだぞ!」
「新しくプログラムを組み直すにしても時間がないぞ!?」
「一体、どうすればいいんだ!?」
湊人の周囲に鳴り響く怒号が、透花の耳にも届けられる。
「管制室は大混乱だ。そっちはどうなの?」
『こっちも混乱しているよ。キャビンアテンダントだけでは乗客たちを諌められないから、副機長が客室に向かったところ』
「まあ、そうなるよね。とりあえず、ここに来てわかったことを話すよ」
湊人は眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げながら、真剣な表情でモニターを見つめる。
「何者かによって、システムが完全に乗っ取られてる。頑強なプロテクトがかけられているから、それを解くだけでもかなりの時間を必要としそうだ。もしこれが解けたとしても、次の問題に直面する。バックアップを取っていた、今までのデータが消去されてるんだ。つまり、プロテクトを解いたところですぐにいつもの自動操縦モードに切り替えることができないってことだね。新しくプログラムを組み直すのにも、また時間がかかるし。全く、なんとも周到な犯人だよ」
『自動操縦モードを諦めて、手動操縦に切り替えることは可能なの?』
「それなら、プロテクトさえ解ければ簡単だろうね。でも、僕は不安だなぁ」
『不安?』
「最近、自力では運転できないなんちゃってパイロットが増えてるってニュースでやってたでしょ? 僕は、そんな不確かなものには頼りたくないんだよ
『湊人くんらしい考え方だね。じゃあとりあえず、プロテクトを解くことに尽力してもらってもいいかな? それが完了したら、次にやるべきことを考えよう』
「了解。それまでに落ちる飛行機が出ないことを祈っておくよ」
『縁起が悪いことを言わないの。じゃあ、また後でね』
透花からの通信を切ると、湊人は再びモニターと向かい合う。
そしてプロテクトを解くために、一心不乱にキーボードを叩くのだった――――――――――。