見えない敵
「失礼いたします」
「な、なんだね君たちは!?」
「王都の軍にて隊長の地位に就いている、一色透花と申します」
そう言うと透花は、懐に忍ばせていた懐中時計を見せた。
宝石が散りばめられ国の紋章が入ったそれは、王から直接送られたものである。
彼女が身分の証明された人間だという、何よりの証なのだ。
「そ、その懐中時計は……! これは失礼いたしました!」
「先程の放送を聞き、何かお力になれればと思い参りました」
「助力、感謝いたします……!」
「……ハイジャック犯はどこに?」
コックピットの中には、中年の機長と、副機長以外の姿は見えない。
ここに至るまでにも、不審な人物には出くわさなかった。
「ハイジャック犯は、ここにはおりません……」
「……どういうことでしょう?」
「この飛行機には自動操縦機能がついています。今回のフライトも、それを運用していました。……ですが、何者かによって外部からプログラムを書き換えられてしまったようなのです。手動に切り替えることも出来ず、このままだと数十分の内に墜落してしまいます……!」
「……なるほど。危機に晒されているのはこの機体だけですか?」
「……空港に確認したところ、この一時間以内に空港を離陸した全ての機体が同じ状況に陥っているといいます。犯人側からの要求は、まだないと言っていましたが……」
「わかりました。書き換えられたプログラムを正しいものに戻す、または手動操縦に切り替えることができれば、我々は助かるのですね」
「はい。……現在、空港のエンジニアたちが総出で解決法を探しているところです。しかし、先程からこれといった進展はないようで……」
「プログラミングに詳しい知り合いがおりますので、彼に協力を仰ぎましょう。解決法が分からないのなら、人手は多い方がいいと思いますので」
「協力、ありがとうございます……!」
すっかり狼狽している機長たちとは違い、透花は妙に落ち着いている。
彼女は上空での使用を制限されない特殊な通信機を取り出すと、どこかに連絡を取り始めたのだった――――――――――。