おはようっ! いい天気だね!
文化祭が終わり、数日が過ぎた。
イベント特有の空気に包まれていた学校は、すっかりいつも通りの風景だ。
この日、颯はいつもよりも登校時間が遅れていた。
どうしても髪型が決まらず、なかなか家を出られなかったのだ。
(やべー……! お、女がいる……!)
女子生徒を恐れ、普段は早めの登校を心がけていた。
少しでも女子との接触を減らすための努力の一つである。
だが現在は、ちょうど登校時間のピークらしい。
颯が通う高校は男女別学だが、門は共有している。
校門は、多くの生徒でごった返していた。
心が部活の朝練習に行ってしまっているため、頼れる者はいない。
颯は足元を見ながら、ひたすら歩き続けていた。
そんな彼に、声をかける者がいる。
「お、緒方くん! おはようっ!」
後ろを振り返ると、そこには寧々が立っていた。
「きょ、今日はいい天気だね! それじゃあっ!」
早口でそれだけ言うと、颯の返事も聞かずに走り去ってしまう。
残された颯は、一瞬の出来事で何が起こったのか理解できていない。
(あ、挨拶できた! 返事はなかったけど、今はこれでいいんだっ)
今の寧々は、颯と会話をすることすらままならない。
笑顔を向けてもらうことなど、夢のまた夢である。
そう感じた寧々は、とりあえず挨拶をすることから始めたようだ。
(少しずつでもいいから、仲良くなりたいなぁ……)
寧々が自分の感情に付けた名前は、”恋”。
少女の初恋は、まだ産声を上げたばかりなのだ――――――――――。