いつか私にも、笑顔を見せてくれたらいいなぁ。
三人はその後、一時間ほど一緒に文化祭を回った。
たこ焼きを食べたりお化け屋敷に入ったりと、充実した時間を過ごした。
透花の集合時間になったため、解散してそれぞれの持ち場へと戻っていく。
他の隊員たちと合流した透花は、改めて二人の元を訪れた。
弓道体験には虹太以外が参加したが、的まで矢が届いたのは柊平と蒼一朗だけだった。
クラスの企画には大人数で来店したため、小さな混乱を巻き起こしてしまった。
だが、それすらもいい思い出になるに違いない。
心と颯にとって人生初となる文化祭は、楽しいことの連続だった。
三日間続いた祭は、あっという間にクライマックスを迎えようとしている。
最終日の夕方である現在、外部の客は既に校内から姿を消していた。
校庭には大きなキャンプファイヤーが組まれ、燃え盛りながら辺りを照らしている。
生徒はフォークダンスを踊ったりお喋りをしたりと、自由に時間を使っているようだ。
人気のない場所に意中の相手を呼び出し、告白をしている輩も少なくはない。
実際、夏生はひっきりなしに女子から声をかけられている。
記念受験ならぬ記念告白をしたいと考える女子が、後を絶たないのだ。
颯や心は色恋沙汰に興味がないので、クラスメイトたちと話している。
そんな男子の輪を、少し離れた場所から見つめる一つの視線があった。
(緒方くんって、あんな風に笑うんだっ……。私の前では笑わないから知らなかった……)
周囲の空気にあてられた寧々は、颯と話がしたいと思いここまでやって来たのだ。
だが、颯の笑顔を見たことによって足が竦んでしまう。
(声なんてかけたら、みんなに冷やかされちゃうよね……。緒方くん、そういうの嫌がるだろうなぁ……。嫌われたくないし、声をかけるのはやめておこう。お疲れ様ってメールを送るくらいなら、大丈夫かな……?)
寧々は踵を返すと、友達のいる場所まで戻った。
胸の内に芽生えた感情とどのように付き合っていくかは、これからの彼女次第なのである――――――――――。