おーおー、青春だなー。
透花の放った矢は、美しい軌道を描きながら的の中心を射抜いた。
静かな弓道場に、部員たちの感嘆の声が響く。
「透花さん、すごいっすね!!」
「真ん中に当てるのって、ほんとに難しいのに……」
「自分でも驚いちゃった。ビギナーズラックってやつかな?」
三人が話していると、近付いてくる者がいた。
「おーおー、すげえな。弓道部の奴らでもなかなかできない芸当だぞ」
弓道部の顧問であり、心と颯の担任でもある竹彪だ。
「緒方が一緒ってことは、噂のパンケーキ美女か」
「パンケーキ美女?」
「さっきクラスの模擬店に顔出したら、その話で持ち切りだったぞ。すごい美女が来たと思ったら、まさかの緒方の知り合いだったって。注文した品にちなんで、パンケーキ美女と言うらしい。いやー、まさかお前に彼女がいたなんてな。先生は嬉しいぞ」
「彼女じゃないっすよ!」
「あれ、違うの? じゃあ結城の彼女か? 見た感じ知り合いっぽいし」
「……違う」
「おっ、なんだなんだ。二人とも草食系男子ってやつかー?」
竹彪はそう言うと、ニヒルな笑みを作る。
だが心と颯に、このような挑発が通じるはずがない。
「俺は断然肉派っすよ! 野菜も美味いけど、あんま食った気がしねえもん!」
「僕も……。お肉、大好き……」
「お前らなー……。まあいいや。おい、結城。休憩してきていいぞ。せっかく知り合いが来てくれてるんだから、一緒に文化祭回りたいだろ」
「え、でも……。まだ交替の時間じゃないのに……」
「あんま人も来なくて暇だからなー。休憩がてら、ビラ配りでもしてきてくれや。執事と弓道衣が一緒に歩いてたら、嫌でも目立つだろ」
「……ん、わかった。行ってきます……」
心と颯は振り返らずに、透花は竹彪に会釈をしてから弓道場を出て行く。
「おーおー、青春だなー」
仲睦まじい三人の背中を見送りながら、竹彪はぽつりと呟いたのだった。