あなたが見ていてくれるから、いつもより調子がいいみたい。
「俺、弓道場って来たの初めてっす!」
「体育でやったことはないの?」
「まだないっすね! その内やるとは思うんすけど!」
弓道場に着いた透花と颯は、靴を脱ぐと中に入っていく。
ここは校舎内とは違い人も少なく、静かな空気に包まれていた。
透花は、受付にいる女子部員に声をかける。
「すみません。結城心はおりますでしょうか?」
「結城ですか? あいつならこの奥にいますよ」
「ありがとうございます。体験がしたいのですが、彼に指導してもらうことはできますか?」
「はい。こちらへどうぞ」
女子部員に案内され少し歩くと、弓道衣姿の心が見えてきた。
「結城。お客さんが来てるよ」
「先輩……。ありがとうございます。透花さん、颯くん、いらっしゃい」
「おう! 来たぜ!」
「心くん、弓道衣姿よく似合ってるね」
「……ん、ありがとう」
「後で、颯くんと並んで写真を撮らせてね。留守番しているぱかおに見せてあげたいから」
「わかった……。二人とも、弓道やってみる?」
「うん。ぜひ! 颯くんは?」
「もちろん! って言いたいとこだけど、衣装を汚したらヤベーからやめとくっす……」
「じゃあ、透花さんだけだね……。こっちに来て」
二人は射場に立った。
心は透花に弓と矢を渡すと、少し離れた場所で自分もそれを持つ。
「簡単な体験だし、僕の真似してくれれば大丈夫……。見ててね」
「うん。よろしくお願いします」
心は足を開き、姿勢を整えた。
そして弓に矢をかけると、それを大きく持ち上げる。
放たれた矢は、的の中心から少し外れた場所に刺さった。
「おお……!」
「すごい……!!」
「今日は、かなり調子がいいかも……。こんな感じで、透花さんもやってみて……」
「わかった。おかしなところがあったら教えてね」
見様見真似で、透花も弓を構えてみる。
「足は、もうちょっと開いた方がいいかも……。六十度って先生が言ってた……」
「これくらいかな?」
「うん……。それで、的をしっかり見て……」
「羽根は頬に付けた方がいいのかな?」
「ほんとはそうするけど、怪我したら大変だから付けなくてもいいよ……」
「わかった」
透花は、凛とした表情で矢を放つ。
それは、吸い込まれるように的へと向かったのだった――――――――――。