ある意味健康的なのかもしれない
④春原理玖の場合
最後に向かったのは、理玖の部屋だ。
晴久は、今までで一番緊張していた。
理玖は基本的に無口なので、質問に答えてもらえるかどうか不安なのだ。
「理玖さん、すみません」
「……どうしたの」
「今、少しお時間いただくことってできますでしょうか?」
「……手短にしてくれる」
「はい、わかりました。食事のことなんですが、普段どのようなものを食べてますか?」
「……それ、君に言わないといけない理由がないんだけど」
「そうですよね……。仰る通りなんですが、理玖さんはただでさえ華奢ですし、みなさんとの食事にも顔を出されないので、どんな食生活を送っているのか気になりまして……」
晴久のあまりにもまっすぐな視線に負けたらしい。
理玖は、ため息を吐きながら答えた。
「……果物と野菜を生で食べてる」
「それだけ、ですか……?」
「基本的にはね。動物性食品は一切口にしないから、食べれるものが限られてるんだ」
「それじゃあ、栄養が偏ってしまう気がするんですが……」
「……そんなこと言われても、食べないんじゃなくて食べれないんだから仕方ないだろう。生まれてからずっとこの食習慣だから、肉や魚は体が受け付けないんだ」
「……ということは、動物性食品を使わなければ僕の作った食事を食べていただけますか?」
「……どういうこと」
「みんなとの食事は、とても楽しいです。それに、ご飯もおいしく感じます。それを理玖さんにも味わってもらいたくて……」
「……用意してくれるなら、食べるけど」
あっさりと了承した理玖に、晴久は驚きを隠せない。
湊人の時のように、もっと粘るつもりでいたのだ。
「え!? いいんですか!?」
「……作ってくれるなら、断る理由はないよ。さすがに生の果物と野菜だけの生活は飽きてきてたし、火が通ってるものを食べたい気持ちもある」
「じゃあ僕、張り切って作りますね! 他に食べれるものはありますか?」
「……米とかきのことか食べれる。生では食べれないし、調理するのは面倒だから自分では食べないけど」
「わかりました! 今日の夕飯、楽しみにしててください!」
こうして理玖は、少しずつ健康的な食事をとるようになったのだった。
「そいつ、すごいな……。肉が食べれないのとか考えられないんだけど……」
「はい、それはみなさんも同じみたいです。野菜やきのこだけの食事を出したら、あからさまに残念そうな顔をした人が何人もいたんです。なので、必ず一品は全員が一緒に食べれるものを用意して、それ以外は理玖さんの分は別に作ってます」
「晴久は、本当に料理が好きなんだな! そうじゃなきゃ、こんなに頑張れねえよ」
「……そうですね。みなさんに楽しんでほしいと思ってはいますが、一番楽しんでいるのは僕かもしれません」
二人は、先程一緒に作った親子丼を食べながら話す。
晴久がここに来てから、既に六日が経過していた。
明日は最終日なので、この家に寝泊まりするのも今日が最後だ。
「なあ、晴久。明日練習見に来ないか?」
「練習って、サッカーのですか?」
「おう。お前の得意な家事を教えてもらったからさ、俺の得意なものも見てほしいんだ!」
「お邪魔じゃなければ、ぜひ行かせてください。見てみたいです!」
「よし! じゃあ決まりな!」
翌日は、雅紀の練習の見学に行くことが決まったようだ。
一週間限定の同居生活は、間もなく終焉を迎える。