他の女と一緒にすんじゃねえ! 性別なんか超越してんだよ!!
「そういえば、透花さん一人っすか? 他のみんなは?」
「それぞれ、興味のある所を回っているよ。後で集合してからみんなで来るはずだったんだけど、歩いていたら偶然ここを見つけてね。颯くんと心くんいるかなって覗いてみたんだ」
「そうだったんすね! 心は今、部活の方に行ってるんでいないっす!」
「そうみたいだね。フライングしちゃったけど、何か食べていこうかな」
「あざっす! メニューはこちらになります!」
「わあ! 本格的だね。うーん、目移りしちゃう……。執事さんのオススメはありますか?」
「パンケーキっすかね! 運動部の友達が焼いてるんすけど、いかつい男が焼いたとは思えないくらいふわふわでしたよ! 味見したんで間違いないっす!」
「では、それを一つ。あとは、この紅茶をいただこうかな」
「かしこまりました! お嬢様! 少々お待ちください!」
注文を取り透花の元を離れた颯に、クラスメイトたちが押し寄せる。
「おい! 緒方! あのキレーな人誰だよ!?」
「めっちゃ親しそうじゃん! まさか、彼女……!?」
「ちげーよ! 俺の親代わりの人!」
「親代わりって……。お前、ばあちゃんみたいって言ってたじゃん!」
「どっからどう見ても、綺麗なお姉さんなんですけど!?」
「ばあちゃんみたいなのは、あくまでも雰囲気の話だよ!」
「雰囲気……!? あんな美しい人の、どこがばあちゃん……!?」
「っていうかお前、女なのに何であの人とは普通に話せるんだよ!?」
「は!? 透花さんを他の女と一緒にすんじゃねえよ! 透花さんは性別なんて超越した、透花さんっていう存在だからな!」
「「わりい、全然わかんねえわ……」」
自信満々に言い放った主張は、クラスメイトたちには受け入れられないようだ。
「あんなに綺麗な人相手なら、荷物も持ってあげたくなるよねー」
「うん。箸より重い物を持たせられないっていうのもわかるもん」
「さっき目が合ったんだけど、微笑んでくれたよ! 同性なのにドキドキしちゃう!」
(それに、綺麗なだけじゃなくて優しいんだよっ……)
女生徒たちが話しているのを聞きながら、寧々は心の中で呟く。
あれだけ注目されている透花に話しかければ、嫌でも目立ってしまう。
静かな学校生活を送りたい寧々としては、それだけは避けたいのだ。
(それにしても緒方くん、あんなに素敵な人と一緒に暮らしてるんだ……。美人だし、スタイルもいいし、優しいし……。私が勝てるところなんて、一つもないよっ……。って私、一体何を考えてるの!? しっ、仕事! 仕事しなきゃ!)
恩人に会えて高揚した気分が、急速に萎んでいく。
寧々はまだその気持ちに、名前を付けられないでいた――――――――――。