お帰りなさいませ! お嬢様!
(さっきの人、大丈夫かなっ……)
模擬店に戻ってからも、寧々は先程助けられた少女のことが気になって仕方なかった。
(すっごく綺麗な人だったな……。思い出すだけでドキドキしちゃうっ……)
寧々が多少呆けながら接客していると、店に新しい客が入ってきた。
(あっ……!)
それは、つい先刻会ったばかりの少女だった。
(よかった……。無事だったんだっ……。今度こそ、ちゃんとお礼を言わなきゃ……!)
だが、寧々よりも先にその少女に近付く者がいた。
「一色さんじゃないですか! こんにちは!」
「有川くん、こんにちは」
「あっ、間違えました! お帰りなさいませ、お嬢様。こちらへどうぞ」
「ふふふ、ありがとう。執事さん」
少女を席までエスコートしたのは、夏生である。
「す、すげー美人が来たぞ!」
「くっそー! 女はみんな有川ばっかり……!」
「あの人、すごい美人だね」
「有川くんの知り合いってことは、モデルさんとかかな?」
(タイミング、逃しちゃったなぁ……)
夏生がいては、寧々は女性に近付くことができない。
そんな寧々の気持ちなど知る由もない夏生は、彼女と楽しげに談笑している。
「少し早く来すぎちゃったかな」
「いえ、すぐに戻ってくると思いますよ。あ、ほら!」
「透花さん! いらっしゃいっす! じゃなかった! お帰りなさいませ! お嬢様!」
ビラ配りから戻った颯が、溢れんばかりの笑顔を浮かべて女性の元へと向かう。
「颯くん、今日は髪下ろしているんだね」
「すっげー不本意なんすけどね! さすがに燕尾服にヘアバンドはないかなって思って!」
「大人っぽくてかっこいいよ」
「マジすか!? あざす!!」
「たまには下ろしてみたら?」
「透花さんの頼みを断るのは心苦しいっすけど、それはできないっす! もう、デコがスースーして全然集中できないんすよ! だ、大丈夫っすよね……?」
「うん。さっきも言った通り、とてもかっこいいから安心して」
あの颯が、美女と会話している。
それも、普段友人にも見せないような眩しい笑顔を浮かべてだ。
颯の女嫌いを知っているクラスメイトたち、そして今回の文化祭でそれを知った寧々を含む女子生徒たちは、呆然とせざるをえないのだった――――――――――。