誰か、助けてっ……!
「なあなあ、いいだろー?」
「少し付き合ってよ、メガネっ子のメイドさ~ん」
「こ、困りますっ……!」
「困ります! だってよ、か~わいい~!」
「俺、メガネの女の子って大好きなんだよね」
「離してくださいっ……!」
(ど、どうしようっ……!)
文化祭が始まり、数十分が経過している。
寧々は、ビラを配りに行った先でガラの悪い連中に捕まっていた。
服装から察するに、この学校の生徒ではないだろう。
気の弱そうな少女が一人でいるところを見計らって、声をかけてきたのだ。
男性が苦手な寧々は、強く反抗することも、掴まれた手を振り払うこともできなかった。
「ほら、さっさっと行こうぜー?」
「なんかうまいもんでも奢ってやるって」
「きゃっ……!」
(誰か、助けてっ……!)
無理矢理連れて行かれそうになった、その時のことだった。
「お兄さんたち、その辺にしておいたらどうかな」
柔らかな声が、寧々を連れ去ろうとする男たちを制止する。
そこには、黒髪の美しい女性が立っていた。
「部外者は引っ込んでろって言いたいとこだけど、あんた美人だな」
「この子の代わりに、お姉さんが付き合ってくれる?」
「私でよければ。だから、この子は解放してもらえるとありがたいのだけれど」
「いいぜ! こんな美人連れて歩けるなんて、俺らも鼻がたけーしな!」
「おら! お前は用済みなんだよ! とっとと行け!」
「あっ……」
男たちは、黒髪の女性を連れて立ち去ろうとする。
「私のことなら心配しないで大丈夫だからね。あなた、ここの生徒さんでしょう? これ以上変な輩に捕まる前に、早く自分の模擬店に戻った方がいいよ。気を付けて」
女性は寧々に声をかけると、男たちの後を追った。
(あっ……! 私、お礼も言えてない……!)
恐怖でうまく声を出せない寧々は、急いで頭を下げる。
彼女は振り返ると、寧々に美しい笑顔を返したのだった――――――――――。