デコがすーすーするぜ……。
いよいよ、文化祭初日である。
颯と心の通う高校の文化祭は、連休を使い三日間に渡って行われる。
登校し、本日のシフト表を見た颯は驚愕した。
すると、クラスメイトの一人が申し訳なさそうに話しかけてくる。
「な、なんか俺のシフト多くねーか……!?」
「緒方! 悪い! なんか今日は、部活やら有志やらの企画に参加する奴が多くてよ~。どっちもやってないお前の出番、多くなっちまったんだ!」
「これだけ長い間、女子と……!? きゃ、客の女も来るのに……!?」
「まっ、その辺は心配すんなって。お前がシフトに入ってる時は、ずっと有川がいるからさ。接客はあいつに任せて、お前は簡単な仕事してくれればいいから!」
「お、おう……」
「じゃあこれ、お前の衣装な! 使ってない教室が更衣室になってるから!」
颯は燕尾服を受け取ると、更衣室へと移動した。
他に着替えをしている者はおらず、貸し切りの状態である。
(燕尾服にヘアバンドは、さすがにねーよな……)
着替えを終えると、無人なのを確認してからヘアバンドを外す。
そして、持ち前のメイク技術を駆使して額にある刺青を隠し始めた。
(こんなもんか……。うう、デコがすーすーするぜ……)
完璧に隠し終えると、髪の毛をセットし直し教室へと戻る。
ヘアバンドを外している颯は、いつもよりも大人っぽく見えるようだ。
「緒方! お前、ヘアバンドない方がかっけーじゃん!」
「こっちの方が絶対に女子にもてるぞ!!」
「ぜんっぜんもてたくないからいいんだよ!」
クラスメイトと戯れている颯を見ながら、何やら女子が噂している。
「緒方、ヘアバンドないと大人っぽいねー」
「うん。いつもは子どもっぽい感じだけど、あれはアリかも~」
「ちょっとかっこよくない? 有川くんには負けるけどさ!」
(ヘアバンドがないだけであんなに雰囲気変わるんだっ……。かっこいい、なぁ……)
口には出さないものの、寧々も同じ気持ちのようだ。
これは、文化祭が始まる約一時間前の出来事である――――――――――。