箸より重い物なんか持たせられるかっつーの!
文化祭の準備は、滞りなく進んでいた。
今日は、男女混合で材料の買い出しに来ている。
心やその他のクラスメイトも数人いるので、颯も参加していた。
「……持つよ」
「………………………………」
重そうな袋を持つ女子に、心が声をかける。
颯も、荷物をよこせと言わんばかりに手を差し出していた。
もちろん、視線は明後日の方向を向いているのだが。
「結城くん、緒方くん、ありがと~」
「二人とも紳士だねー! 他の男子とは違って!」
女子たちは二人に袋を渡すと、他の女子の荷物を運ぶのを手伝いに行く。
その様子を見ていたクラスメイトの一人が、心と颯に話しかける。
「……お前らって、女に興味なさそうなのに妙に女に優しいよな」
「特に緒方! お前は女が苦手なんじゃなかったのか!?」
「もちろん苦手だけどさ! 女子に重い荷物持たせたらダメだろ!? な、心!」
「……ん。これは男の仕事だよ……」
この二人、透花と出掛ける時はいつも率先して荷物を持つようにしているのだ。
少しでも、大人に見られたいが故の行動なのだろう。
「もしかして、あれか? 育ての親だっけ? その人の荷物いつも持ってやってんの?」
「当たり前だろ! 透花さんの手に、箸より重い物なんて持たせられっかよ!」
「実際、透花さんは僕たちより力持ちだと思うけど……」
「緒方、その人のことは全然平気なわけ? 女なんだろ?」
「おう! 透花さんは女って感じがしねーから平気! ばあちゃんみたいだからな!」
「あったかいんだよね……」
この会話を聞いた中で、透花が絶世の美女だと思う者はいないだろう。
買い出しに参加していた、寧々もそうだ。
(緒方くん、恰幅のいいおばあちゃんに育てられてるんだっ……)
この想像は、文化祭に当日に覆されることになるのだった――――――――――。