話さないんじゃない。話せないんです。
「………………………………」
「………………………………」
約束の日は、すぐに訪れた。
相変わらず、颯と寧々の間に会話はない。
颯が話しかけないのは勿論のことだが、寧々からも会話がないのは不思議である。
二人は一定の距離を保ちながら、由莉の店に向かっている。
心と夏生に同行を頼んだのだが、心は部活、夏生は仕事があるため断られてしまったのだ。
他のクラスメイトは今回のことを面白がっているので、一緒に来てくれるはずもない。
こうして、なんともいえない空気を漂わせたまま二人は歩みを進めるのだった。
「颯ちゃん、いらっしゃい。待ってたわよ」
「ユリちゃん……!」
店に入るとすぐに、由莉が出迎えてくれた。
安心した颯は、あからさまに表情を和らげる。
「後ろの子が、文化祭で一緒の係になったって子よね?」
「あ、はいっ。あ、藍原寧々と申します……」
「寧々ちゃんね。私のことは、ユリって呼んでちょうだい」
「わ、わかりましたっ」
突然のオネエ店員の登場に寧々は一瞬驚いたが、すぐに平静を取り戻した。
「早速だけど、例のモノ届いてるわよ」
「お、マジで!? よっしゃ!」
「あんた、ほんと運がいいわよね。今じゃなかったらきっと手に入らなかったもの」
「ユリちゃん、ありがとな! どんな感じか見せてほしいんだけど!」
「はいはい。二人とも、こっちにいらっしゃいな」
由莉はそう言うと、二人をバッグヤードへと案内した。
何の説明も受けていない寧々は、戸惑いながらも黙ってついていく。
「じゃーん! これが、あんたたちがお探しのメイド服と燕尾服よおー!」
「うおおおおお!」
「す、すごいっ……!」
案内された先には、二十着ほどの衣装が用意されていたのだった――――――――――。




