女子とメールする時のコツを教えてください!
『こんばんは。藍原寧々といいます。文化祭まで、よろしくお願いします』
その夜、衣装係の女生徒からメールが送られてきた。
彼女の名前は、藍原寧々というらしい。
女子高校生らしからぬ、真面目で硬い文章だ。
『こんばんは。俺は、緒方颯です。こちらこそ、よろしくお願いします』
颯は、悩んだ末にこのような内容を送り返した。
いつもの彼とは違い、エクスクラメーションマークなども使わない。
こちらも負けず劣らず、真面目で硬い文章である。
「……えー!? 颯くんが女の子とメールしてる!?」
難しい顔で携帯電話とにらめっこしていたので、人の気配に全く気付かなかった。
言い忘れていたが、ここは颯の自室ではなくリビングである。
後ろから颯の手元を覗き込んでいるのは虹太だ。
虹太は一瞬驚いた表情をしたものの、すぐにいつもの緩い笑みを浮かべる。
「いや~、いいね! 青春だね☆ 颯くんにも遂に、彼女ができたなんて!」
「か、彼女……!?」
「ハルくんに頼んで、明日はお赤飯にしてもらう?」
「晴久さんの赤飯はうまいっすけど! そういうんじゃないっすから!」
「え~、違うの? 女嫌いの颯くんがメールしてるんだから、絶対彼女だと思ったのに!」
「違いますよ! これは、文化祭の話し合いをするために仕方なくやってることなんす!」
「そうだったんだ~。……確かにこれは、彼女に送るようなメールじゃないね」
敬語で自己紹介をしているメールを見て、誤解は解けたようだ。
颯は、今日の出来事を虹太に話した。
「……というわけで、このメールが俺の命綱なんす!」
「なるほど~。それにしても、文章硬くない?」
「女子とメールするのなんて初めてだから、どうすればいいかわかんないっすよ……!」
「初めてって、透花さんがいるじゃーん」
「透花さんは性別なんて超えた、透花さんってジャンルの人間なんで!」
「ほんと、颯くんって不思議だよね~」
「女子とメールする時のアドバイスとかないっすか!?」
「う~ん、颯くんの場合女の子って意識するとダメだろうから、相手を男友達だと思えば?」
「男友達……。無理っすよ! だって、今日会ったけど女子でしたもん!」
「そうだよねぇ。寧々ちゃんなんてかわいい名前の子、男に思えないか~」
「あああ、もうどうすればいいのかわっかんねえー!!!」
「颯くん、落ち着いて。メールの文章くらいなら、一緒に考えてあげるよ~」
「マジっすか!? あざまっす! めちゃくちゃ助かります……!!」
「どういたしまして~☆ 文化祭、楽しみにしてるからね♪」
「うっす!!」
こうして颯は、虹太の協力を得てメール作成に励んだ。
そして二日後の放課後に、一緒に由莉の店を訪ねる約束を取り付けたのだった。