嘘だって言ってください、マジで
「朝も話した通り、午後は分文化祭についての話し合いだ。女子と合同でやるから、中央棟の視聴覚室まで移動な、お前ら、嬉しいからってあんまりはしゃぐなよ」
「……え、ええええええええええええええええええええ!?」
「緒方、うるさいぞー」
この日、颯の平穏な学園生活に初めての危機が訪れた。
颯と心の通う高校は、男女別学校である。
その名の通り校舎で男女が分かれているので、異性と顔を合わせることはまずない。
食堂は男女共用だが、毎日弁当を持参している颯には関係のない話だった。
同じく合同で行われる部活動、委員会にも颯は参加していない。
教師もほぼ全員が男性で、五十代の養護教諭が唯一の女性である。
つまり、この学校内で女性と接する機会はほぼ皆無だったのだ。
それ故に、女性が苦手な颯は快適な学園生活を送っていた。
学期の区切りごとに合同の集会はあるが、数十分のことなのでなんとか我慢できていた。
「ちょっ!? えっ!? 合同!? なんで!?」
「朝も説明しただろー。文化祭は一年一組とA組、二組とB組みたいにペアでやるんだよ。うちは一年B組だから、二組とだな」
「先生!? それマジっすか!? 朝も説明した!? ほんとに!?」
「ああ、したした。お前、俺の話聞いてなかっただろ」
「……おおおおお俺! 腹が痛いんで保健室行ってくる!」
そう言って立ち上がった颯に、担任である男教師、片桐竹彪は追い打ちをかける。
「今日は保健室のおばちゃんが休みだから、行くなら女子部の方に行けよー」
「え……!? おばちゃん、休み……!?」
「おお。女子部の養護教諭は、二十代の若いお姉さんだぞ」
「ワカ、イ、オネエサン……」
颯は脱力してしまい、そのまま椅子に倒れ込む。
そして、魂が抜けたように動かなくなってしまった。
「うっし、みんな移動するぞー。結城、有川、緒方のこと頼むな」
「……はい」
「はーい!」
竹彪は心と夏生に颯のことを任せると、教室を出て行く。
他の生徒たちも、それに続いて歩き出した。
颯は二人に引きずられるような形で、視聴覚室へと向かうことになったのだった。