その表情の理由はまだわからない
②椎名虹太の場合
晴久は次に、虹太に理由を聞きに行った。
彼も柊平と同じく、ほとんどの食事を外食で済ませているようだ。
大勢で集まって何かをするのが好きなタイプなので、柊平のような理由は考えにくい。
「虹太くん、こんにちは」
「あ、ハルくん! やっほ~☆」
「今、少しお話できますか?」
「もっちろーん! どうしたの?」
「その、食事についてなんですが……」
「あー、そのことか……」
食事の話題を出した瞬間、虹太の表情はさっと曇る。
「文句を言いに来たんじゃないんですよ。ただ、外食ばかりの理由があれば教えていただければと思いまして。何か好き嫌いがあるなら、言ってくだされば対処もしますし」
晴久なりに考えた結果が、偏食だった。
好き嫌いが多いがそれを言い出せず、食事の場に顔を出しづらいのではないかと思ったのだ。
「いやー、特に好き嫌いはないよ。なんでも食べれるからへーき」
「では、どうして……」
「うーんとね……。ハルくんごめん! それはちょっと言いたくないんだ! 今度からはみんなと一緒に食べるから、理由までは勘弁してもらえない? このとーり!」
虹太は両手を合わせると、懇願するポーズをとる。
いつものような軽いノリで理由を教えてもらえると思っていた晴久は、虹太の態度に戸惑いを隠せない。
だが、必死に頼み込む彼の姿を見ていると、よほど言いたくないことなのだと察しはつく。
晴久は最初から、無理矢理理由を聞き出そうとは思っていなかった。
「虹太くん、大丈夫ですよ。言いたくないなら言わなくて構いません。でも、本当にいいんですか? みなさんと一緒に食事をするということ……」
「うん、だいじょーぶ。むしろ今までごめんねー。ハルくんの料理がおいしくないとか、そういうことではないから! でもたまに外食しちゃうかもしれないけど……」
「何か理由があるんでしょうし、毎日ではなくたまにでもみんなと食事をとってもらえれば僕は嬉しいです。外食も、虹太くんの好きなタイミングで行ってください」
「……なんかごめん」
「いえ、むしろこちらこそごめんなさい。無理矢理来てもらう形になってしまって……」
「いやいや! そんなことはないよー! 今日は早速、みんなと一緒に食べるね♪」
先程までの暗い表情から一変して、そこにはいつもの明るい虹太がいた。
こうして彼はたまに外食することはあるものの、以前よりも頻繁に皆との食事の席に顔を出すようになったのだった。
「でもやっぱり、いつもに比べて食事の時間は元気がないんですよね……」
「結局、その理由ってのはまだわかんないのか?」
「はい。無理矢理聞き出すのもどうかと思いますし……」
「確かにそうだよな。まっ、そいつも話したくなったら自分から話すだろ」
「そうだといいんですが……」
「大丈夫だよ! 晴久って話しやすいし! 俺が保証する!」
「……ありがとうございます、雅紀くん」
二人は、一緒に作った夕飯をつつきながら話す。
この日作ったカレーは偶然にも、虹太が食べている時に元気があるように見える数少ないメニューの一つだった。