君たちの幸せを願うよ
透花たちは雪男たちの問題が解決したことを報告するため、山守の家へと寄った。
山守は、三人の無傷での帰還に驚きを隠せない様子だ。
「あんたら、無事だったのか!?」
「はい。この通り怪我一つしていませんよ」
「よかった……! 儂は、あんたらのことを止めるどころか頼み事までしたから……。もしあんたらが死んじまったらどうしようって……」
「安心してください。その件については、全て解決しましたから」
透花は、笑顔でそう言い切った。
それから、事の顛末について説明していく。
首謀者である魔法使いの存在にはあえて触れずに、悪い人間の仕業ということにして。
「そうか……。そんなことが起こってたんだな……」
「でも、彼らの洗脳は解けました。二度と、人間を殺めるような真似はしません」
「本当によかった……! あいつら、自分の意思で殺しをしてたんじゃなかったのか……」
山守は、ほっとしたように息を吐いた。
そんな彼に、透花はまだ伝えなければならないことがある。
「……今回の件を受けて、彼らは更に山奥に移り住むことにしたようです。それこそ、人間が足を踏み入れられないような場所に。ですから、もう偶然出くわすこともないでしょう」
「……少し寂しくなるが、仕方ないことだよな。元はといえば、儂ら人間が縄張りを踏み荒らしたのが悪いんだ。それなのに、あいつらを追いやることになって申し訳ないと思う。……あいつらの新しい暮らしが、平穏であることを願うさ」
山守はそう言うと、窓越しに洞窟を見た。
その視線には、以前のような悲哀は含まれていない。
穏やかで、優しい光が宿っている。
「本当に世話になったな。すぐに、王都に帰るのか?」
「はい。仲間が、私たちの帰りを待っているので」
「これ、よかったら持っていってくれ」
山守は三人に、タンブラーを一つずつ渡す。
「ほうじ茶が入ってる。あんたらが戻ってきたら渡そうと思って、用意してたんだ」
「ありがとうございます。まだまだ寒い場所を歩かなければならないので助かります」
「本当は食事でもご馳走してもてなしたいところだが、急いでるんだろ? そんなもんじゃ礼にもならないけど、ないよりはマシだろ」
「あまりお気になさらないでください。自分の用事のついでに解決できたに過ぎませんから。それに、今の私たちにはこれが何よりのもてなしですよ」
透花たちは、タンブラーを手に山守の小屋を出る。
そして、王都へ帰るべく雪道を歩き始めたのだった――――――――――。