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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第三十五話 オーランピドールの雫を飲み干して
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ありがとうの言葉を叫びに乗せて

「あなたたちは、これからどうされるのですか? また彼らがやって来たら……」

(……更に山奥の洞窟へと、住まいを移そうと考えている。人間が軽々しく入って来れない場所まで行ってしまえば、奴らも追ってはこれまい)

「あなたは、この洞窟でなくても生きていけるのですね」

(うむ。足がついてはおらぬので、運んでもらわねばならないがの)


 雪男は、怪力が取り柄の生物である。

 彼女を輸することなど、造作もないのだろう。


「では、そろそろ失礼します。私たちの帰りを待っている仲間がおりますので」

(言葉では言い表せぬほど、そちらには感謝しておる。会話はできぬが、他の皆も同じじゃ)

「お役に立てて何よりです。こちらこそ、貴重な雫をありがとうございました」

(道中、気を付けよ)


 洞窟を出るために、透花が歩き出す。

 柊平はすぐにその後を追ったが、理玖は動かなかった。


「……これ、もしもの時のために渡しておくよ」


 理玖が荷物から取り出したのは、粉末の入った小瓶だ。


「……君たちを正気に戻したと思われる植物を、粉末状にしたものだ。……量も少ないし、二度と使う機会がないことを祈るけど、あっても困らないと思うから」


 理玖はそう言うと、足元にその小瓶を置いた。

 自分の手からでは、雪男たちは受け取らないだろうと考えたからだ。


(……待つのじゃ!)


 そのまま去ろうとした理玖を、オーランピドールが呼び止める。


(ぜひ、そちの手で渡してくれぬか?)

「……でも、彼らにとって僕の存在は脅威だろう」

(大丈夫じゃ。そちの行動を見ていれば、あのような輩とは違うとすぐにわかる。なあ、お前たち。この小童は、妾たちを酷い目に遭わせた人間と同じか?)


 オーランピドールに促され、一人の雪男が理玖の前まで来た。

 彼は、最初に目覚め柊平と行動を共にしていた男だ。

 一番長く、理玖の姿を見ていた者でもある。

 その雪男は、大きな掌を理玖に向かって差し出した。

 理玖はそこに、小瓶を静かに乗せる。

 それを壊さないように丁寧に受け取ると、鳴き声を発してから仲間の元へ戻っていく。


(礼を言っておる。使わなくても、大切にするそうじゃ)

「……そう。それならよかった。……元気でね」


 理玖は小さな声で挨拶をすると、透花と柊平の後を追った。

 それは、事情を何も知らない者が見れば単なる手渡しでしかないのだろう。

 だが、理玖と雪男にとっては小さな信頼関係が結ばれた証なのだ。

 恩人をを見送るための咆哮が、しばらくの間洞窟内に木霊していた――――――――――。

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