聖い儀式
「……彼らに、この薬を塗ってあげて。その間に、僕は雫を貰うから」
「春原、しかし……」
「……わかった。柊平さん、やろう」
目を覚ました雪男たちは、全員が正気を取り戻していた。
初めに起きた雪男が、他の者に状況を説明する。
人間を殺してしまったという罪悪感、そしてもうそのようなことをせずに済むという安堵感から、皆一様に泣き崩れてしまった。
そんな彼らの傷跡を見て、理玖は治療を施そうとした。
だが、雪男たちは理玖の姿を恐れたのだ。
薬を服用しているので、現在理玖の瞳は金色ではない。
だが、野生の勘というもので自分たちを酷い目に遭わせた人間と同じ種族だということがわかったのだろう。
尋常ではない震え方を見て、理玖は一瞬だけ傷付いた顔をする。
しかしすぐにいつもの無表情に戻ると、透花と柊平に塗り薬を手渡した。
そして自分は、オーランピドールへと向かっていく。
「……君の氷は、一体どうやったら溶けるの」
(簡単じゃ。妾が念じるだけでよい)
「念じる、だけ……?」
(ああ、そうじゃ。妾の氷は、妾の意思でしか溶かせぬ。気持ちが伴わなければ、いくら熱や衝撃を与えたところで無駄なのじゃ)
「……だからさっきは、ライターでもアイスピックでもダメだったのか」
(……先程は済まないことをした。そちらがどのような人間かわからなかったので、易々と体を分け与えるわけにはいかなかったのでな)
「……別に構わないよ」
(そう言ってもらえると、妾としても心が軽くなる。では、ゆくぞ……!)
オーランピドールの花を包んでいた氷が、少しずつ溶けていく。
理玖はそれをくすりおろしに入れ、デザントクスィカフィーヌと一緒に煎じる。
それはまるで、神聖な儀式のように見えた。
透花と柊平だけではなく、理玖を恐れていた雪男たちも自然と視線を奪われている。
「……完成だ」
オーランピドールとデザントクスィカフィーヌが、完全に一体となった。
ここに、未知なる病を治すための薬が完成したのだった――――――――――。