空気が還っていく
(妾のことがわかるのだな……!? まさか、再びこのように話すことができるとは……)
雪男はオーランピドールに駆け寄ると、涙を流した。
会話をしているようだが、透花たちには彼女の言葉しか聞こえない。
雪男の泣き声は、言語ではなく唸るような音として届くだけだ。
「……申し訳ありません。これは一体どういうことなのでしょうか」
「……僕も、どうして君が雪男と一緒に来たのか聞きたいんだけど」
「少し、状況を整理する必要があるね。柊平さん、私たちと別れた後に何があったか話してくれないかな。私も、この洞窟内で起こっていることについて話すから」
「……かしこまりました」
三人は、それぞれに起こった出来事を共有した。
その間も、雪男はオーランピドールの隣で泣き続けている。
「……なるほど。理玖の睡眠薬の中に、毒を中和するような成分が入っていたのかな?」
「……まあ、そう考えるのが妥当だろうね。心当たりはある」
「他の者たちも、正気を取り戻してくれればよいのだが……」
大きな怪物が、まるで子どものように泣きじゃくっているのだ。
自我はなかったにしろ、人間を殺すという行為はよほど辛かったのだろう。
(そちらには、感謝してもしきれぬ……! 恩に着るぞ……!!)
「……偶然による結果だけどね」
「そうだね。でも、その偶然がこの洞窟のみんなを救ったんだよ」
「あの、目的のオーランピドールの雫は……」
(心配するな! そちらは妾たちの恩人じゃ! この体、いくらでもくれてやろうぞ!)
「……薬を作ることもできそうだ」
「あなたの貴重な体、ありがたく頂戴させていただきます」
「……これで、王都の人々も助かりますね」
先程まで、この洞窟は悲壮感で満ちていた。
だが今は、オーランピドールを中心に少しずつ温かい空気が広がっていくのだった――――――――――。