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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第三十五話 オーランピドールの雫を飲み干して
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似て非なるもの

 オーランピドールから語られたのは、とても悲しい物語だった。


(……二人の人間の尊い命が、失われた。このままでは、もっと犠牲者が増えるかもしれぬ。そちらは、一体どのようにしてここまでやって来た? 理性を失ったあやつらから逃れるのは、なかなかに困難なことのはずじゃが……)

「……仲間の一人が残って、足止めしています」

(そうか……。その者が息絶えていないことを祈ろう……。いや、危険な場を任せられるということは、相当腕が立つ者なんじゃろうな……。今頃、事切れているのは……)

「……その心配なら、しなくてもいい。彼の剣には、眠り薬が仕込んである。薬を効かせるために傷付けたとしても、致命傷を与えるようなことはしないはずだ」

(そのような方法を……。人間が全て、そちらのような者ばかりならよかったのだが……)


 三人の間に、沈黙が流れる。

 その間に、透花は今回の事件について思考を巡らせた。

 とある考えに行きつくと、静かに口を開く。


「……あなた方に酷い仕打ちをした人間は、私たちが治そうとしている病気を広めた輩と同一人物かもしれません。そう考えると全ての辻褄が合うんです。その病気を治すためには、あなたの力が必要です。それを、金色の瞳の人間たちは知っていた。彼らの目的はわからないけれど、わざわざウイルスをばら撒いたくらいだから治療の方法があったら困るはず。誰かがそれを解明しここまでやって来た時の保険として、謎の薬を用いて雪男たちを……」

「……僕もそう思う。彼らは、植物についてとにかく詳しい種族だ。その知識をもってすれば、動物の理性を失わせるような薬を作ることだって可能なはずだよ。……薬は本来困っている人々が使うものであって、誰かに苦しい思いをさせるためのものじゃない」

(……そちらのような優しい人間もいることがわかってよかった。妾の体をわけてやろう。それで早く、そちらの大切な者どもを助けてやるといい)

「……僕たちの仲間は、それで確かに助かるだろう。でも、君と君の仲間はどうするの? ここじゃあ、精密な検査はできないかもしれない。だけど、あんな話を聞いて放っておけるほど、僕は薄情じゃない。……僕は、医者だ。患者がいるなら、力になる」

「そうだね。みんなを元に戻す方法を考えよう。薬が原因なら、解毒薬を作れないかな?」

「……不可能じゃないけど、さっきも言った通りここじゃ詳しい検査ができない。どういう配合の薬がいいかわからないと、作りようもないよ」

「そうだよね……。だからといって、彼らを王都まで連れて行くのは無理があるし……」


 オーランピドールは、その光景を黙って見つめていた。

 自分たちの日常を壊したのは、確かに人間だった。

 だが、別の人間が自分たちのために心を砕き、解決方法を探そうとしている。

 その事実が、嬉しくてたまらないのだ。

 ここで彼女は、自分のよく知るものと、見知らぬ人間の気配が近付いてくることに気付く。


「……隊長、お待たせして申し訳ありません。色々と事情がありまして、この者を連れてまいりました。春原、治療をしてやってくれないか。傷だらけなんだ」


 そこには柊平と、正気を取り戻した一人の雪男が立っていた――――――――――。

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