悲劇は突然に
「……まさかとは思うけど」
「あなたが、私たちに話しかけたの……?」
(いかにも。ふむ、そちらには妾の声が聞こえるようじゃの)
理玖と透花は、目の前の花に話しかける。
すると、彼女は凛とした声で返事をした。
エルブの森で人間を惑わすような植物たちとは、どこか違うようだ。
(あやつらには、いくら話しかけても聞こえんかったというのに……)
「あやつら……?」
(……突如この洞窟に現れた、金色の瞳を持つ者たちのことじゃ)
「金色の……」
オーランピドールの言葉を聞き、理玖の顔が曇る。
この世で金色の瞳を持つのは、理玖たち魔法使いの一族だけだからだ。
(……その小童も、奴らと同じ気配がするのう)
「………………………………!!」
(瞳の色を変えているようだが、妾の目は誤魔化せぬ。……あやつらの仲間か?)
「……種族的には、そう言ってもいいだろう。だけど、僕は自分の目的のためにここにやって来た。彼らがどうしてここに来たのかは知らないけど、そこは異なるはずだ」
(……では、仲間ではないと解釈してもよいのだな?)
「……ああ」
(わかった。では、次の質問じゃ。そちらが妾を求めていることは、先程の行動からわかっておる。それはなぜじゃ? 理由を聞かせよ)
透花と理玖は、ウイルスがばら撒かれたことについて話す。
彼らを治すために、オーランピドールの雫が必要なことも。
彼女は、その話を静かに聞いていた。
「……というわけで、あなたの雫をいただきたいんです」
(なるほどのう。そういうことなら、妾の体を分け与えてもよい)
「ありがとうございます! 本当に助かります!」
(……だがその前に、妾の話を聞いてほしい。恐らく、そちらにも関係のあることじゃ)
花と氷で出来ている彼女に、表情が見えるような顔は付いていない。
だがそれが、とても真剣な面持ちから発された言葉だということは二人にもわかった。
小さく頷くと、彼女へと目を向ける。
(あれは、一ヶ月ほど前のことじゃ……)
彼女は、自分と仲間たちに起きた悲劇について話し始めたのだった――――――――――。