苦手意識
①久保寺柊平の場合
晴久はまず、柊平に理由を聞きに行った。
彼はほとんどの食事を、外食で済ませているらしかった。
晴久としては栄養面の心配はあるものの、何か理由があって自分の料理を口にしたくないなら仕方のないことだと思っている。
だからこそ、理由が知りたかったのだ。
「柊平さん、こんにちは」
「ああ」
「少しお時間よろしいでしょうか?」
「大丈夫だ」
「その、食事のことなんですが……。毎回外食されていますよね?」
「……そうだな」
「それ自体に文句を言うつもりはないのですが、理由があれば教えていただければと思いまして……」
柊平は晴久からの問い掛けに気まずそうに視線を泳がせると、ポツポツと話し始めた。
「……大した理由ではないのだが」
「はい」
「……大人数での食事に対して、苦手意識があるだけだ」
「苦手意識、ですか……?」
「ああ。皆で食卓を囲むという行為が、幼い頃の記憶を蘇らせるんだ。うちの父は厳しい人だったので、食事の時も箸の持ち方や姿勢などいつも注意されていてな」
「……そんな理由があったんですね。聞いてしまって、ごめんなさい」
「いや、ここが家とは違うというのは分かっているんだ。少しくらい箸の持ち方や姿勢が崩れていても、注意する人などいない。今度からは、なるべく顔を出すようにする」
「……本当ですか!?」
「ああ」
「ありがとうございます! とても嬉しいです!」
こうして何度か食事の席に顔を出す度に柊平の苦手意識は薄れていき、今ではほぼ毎日皆と一緒に食事をとるようになったというわけだ。
「へぇー、そんな理由があったんだな! 確かに俺も、寝転がってお菓子とか食べてると母ちゃんの注意する声が聞こえてくる時があるわ……」
「体というか耳に染みついてるんでしょうね」
「そうだな……。よし、そろそろ買い物行こうぜ! 続きは、またご飯食べてる時にでも聞かせてくれよな!」
「はい。ですが出掛ける前に、洗い物を済ませてしまいましょう。そうすれば帰ってきてから、少しゆっくりできますよ」
「へーい! こういうのって溜めないことが大切なんだな……」
雅紀は使い終わった食器をシンクへと運ぶ。
二人の期間限定同居生活は、なんとも順調なスタートを切ったのだった。