美しい少女
「今年も、この宴の日が晴れてよかったですな」
「いやはや、本当に。これも、全て王様の人徳のおかげでしょう」
「素晴らしい王なのだ。お天道様も力を貸してくれるのだろう」
「お前たち、今日はそのようなおべっかを使わんでもよいぞ! 無礼講だ! どんどん飲め! 一色殿も、もっと飲んでくだされ!」
王に声をかけられた少女は、にこりと微笑む。
「ありがとうございます、王様。では、お代わりをいただいてもよろしいですか?」
「おぉ、是非とも! 誰か、一色殿に酒を注いでやってくれ!」
彼女の名前は、一色透花。
先述の八人が所属する隊を率いる、隊長だ。
女性で、それも若くして隊長を務める人間はリベルテの歴史上初めてであり、彼女の存在を疎ましいと思う輩も多い。
「……全く王様は、なぜあのような者を隊長に任命なさったのか」
「さっぱりわからんな。ただの小娘ではないか」
「隊長に就任してから約一年、大した功績は残していないのだ。除籍も時間の問題だろう」
王に聞こえないように、彼女の悪口を言う者は絶えない。
(これは……)
自分に対して悪く言う者がいることに気付いていたが、透花は特に気にしていなかった。
それよりも、先程までは桜と宴の温かさに満ちていた庭園に、冷ややかな空気が混ざったことが気になった。
「……王様、少し失礼いたします」
「ん? 一色殿! どちらに行かれるのか?」
「部下に指示を出してまいります。すぐに戻りますので、ご心配なさらず」
透花は桜の精と見間違えるくらい美しく微笑むと、その場を離れた。