氷中から聞こえる声
その頃、透花と理玖は洞窟の最奥部へと辿り着いていた。
氷中で美しく咲き誇る花は、まるで彼らを歓迎しているかのようだ。
「わあ、綺麗……」
「……見惚れてる場合じゃないよ。早速作業に入る」
理玖は、荷物からライターを取り出した。
それで氷を熱し、溶けた雫を採取しようとしたのだが――――――――――。
「……全然溶けないね」
「……少し手荒になるけど、仕方ないね」
火で温めることを諦めた理玖は、今度はアイスピックを手にする。
そして、勢いよく氷に突き立てた。
「っ……!!」
「理玖、大丈夫!?」
だが、やはり氷は砕けない。
全ての衝撃が、理玖の右手へと戻ってきてしまった。
「……普通の氷じゃないね」
「……ああ。特殊な方法でしか、採取できないのかもしれない」
(そうじゃぞ。そのような野蛮な方法では、妾の氷は溶けはせぬ)
二人の耳に、知らない少女の声が響く。
急いで周囲を確認するが、誰もいなかった。
「理玖も今の、聞こえたよね……?」
「……ああ。一体どこから……」
(そちらの正面におるじゃろう。それが妾じゃ)
透花と理玖の目の前には、オーランピドールとそれを覆う氷があるだけだ。
声を発するような生物がいるとは到底思えない。
だがその声は、確実に二人の耳へと届いたのだった――――――――――。