震えよ、止まれ
(まさか、薬が効く時間がこれほど短いとは……)
柊平は、剣を持ち直すとその雪男に近付いていく。
凶暴化の原因を究明するために、出来る限り傷付けずに先に進みたかった。
だが、こうなってしまえばそうも言ってはいられないだろう。
(……追ってこられないように、足を斬るしかないか)
雪男と向かい合った柊平は、攻撃を仕掛けようとした。
すると、なんと彼はそのまま尻餅をつき、洞窟の壁際まで逃げてしまったのだ。
そのまま頭を抱え、これから来るであろう痛みに備えている。
大きな体が、一目見ただけで分かるほどに震えていた。
(突然どうしたんだ……? 先程までとまるで様子が違う……)
柊平が一歩近付けば、雪男も一歩逃げる。
その間にも、震えはどんどん大きくなっていく。
とうとう立てないほどに足が震えてしまい、逃げることすらできなくなってしまった。
(私の剣に怯えている……? 危害を加えそうには見えない、か……)
柊平は剣を鞘に納めた。
彼が襲い掛かってくることも、他の雪男たちが目を覚ます気配もないからだ。
直前まで戦っていた相手だったが、痛ましいほどの震えをどうにか止めてやりたかった。
柊平が剣を仕舞ったのを見ると、雪男の震えは小さくなる。
そしてそのまま、地面に頭を擦り、許しを請うような姿勢をとったのだった――――――――――。




