傷付けずに先に進む方法で
「自分たちの意思で戦っているのではないなら、できるだけ傷付けずに進みたいね」
洞窟の中を進んでいると、ふと透花が零した。
「柊平さん、峰打ちとかで雪男を気絶させることはできないかな?」
「……隊長、お言葉ですがそれは難しいことかと」
「柊平さんの腕をもっても無理?」
「……私の剣は両刃です。その、刀などとは違い峰はありませんので……」
「あ……。そっか、そうだよね。うーん、困ったなぁ……」
「……これが使えるかもしれない」
そう言って理玖が取り出したのは、瓶に入った粉末だ。
「……それはなんだ?」
「……眠り薬だ。これを雪男に嗅がせれば寝てくれるかもね」
「……その薬は、人間以外にも効果があるのか?」
「……さあ、どうだろう。試したことがないから分からないよ」
「……いや、使えるかもしれないな。春原、その薬は鼻や口から取り込まなくても効くか?」
「……どういうこと」
「……例えば、傷口などから入り込んでも効果はあるだろうか」
「……それって」
「……ああ。私の剣にそれを付着させ、傷を付ける程度の攻撃を行う。その場合でも、奴らを眠らせることは可能だと思うか?」
「……できるんじゃないかな。だけど、問題点が二つある」
「……なんだ」
「……一つは、本来は口から入れるように作ってあるから、傷口からだと薬が体に回るまで多少時間がかかるはずだ。雪男は、体が僕ら人間よりも大きいだろうし」
「……なるほど。眠るまで時間を稼がねばならないということか」
「……二つ目は、薬の効果が続く時間だ。同じ理由で、口から入れるよりも薬が効く時間は短くなると思う。彼らを眠らせている間に、オーランピドールを入手して解毒薬を作る。そして凶暴化の原因まで究明するとなると……」
「……時間的には、かなり厳しいな。薬はそれしかないのか?」
「……ああ。何度も同じ手は使えないね」
「でも、やってみる価値はあるんじゃないかな?」
柊平と理玖の間に漂う暗い空気を払拭するように、透花は明るく言い切った。
「現状、それ以上の作戦はないと思うよ。せっかく考えたんだし、やってみよう」
「……そうだね。この薬は、君に渡しておく。間違って吸い込まないように」
「……ああ。早速剣に付着させる。……悪いが、マスクを持っていないか?」
「……はい」
「……恩に着る」
三人は一度足を止め、柊平が剣に睡眠薬を塗り込むのを待った。
作業を終えると、再び進み始める。
奥から聞こえる雪男の声は、着実に大きくなってきていた――――――――――。