いざ、洞窟の中へ
「さっきの話、どう思う?」
「……さっきのって、雪男が凶暴化したって話のこと?」
「うん、そう」
透花たち三人は、雪男が住む洞窟を探していた。
ここで三ヶ所目になるのだが、まだ中から声が聞こえる穴は見つからない。
透花からの問い掛けに、理玖は少しだけ考える素振りをしてから口を開いた。
「……まあ、突然変異ってことはないんじゃないの」
「やっぱりそう思うよね。ということは、やっぱり人間の仕業かな……」
「……この辺に、雪男たちを従わせられるような知能を持つ動物がいるとは思えないから、十中八九はそうだろうね。あの話を聞いただけじゃ、断定はできないけど」
「……何か弱みでも握られて、無理矢理従わされているのかもしれないな」
そう言った柊平の顔は、いつも通り無表情だがどこか悲しげだった。
彼は少年時代、結果として雪男たちの住む洞窟に迷い込んだことで命が助かったのだ。
雪男に対して、何かしら思うことがあるのだろう。
「もしかして、ウイルスをばら撒いた輩と同一人物の犯行か……?」
「……私もそう考えていたよ、柊平さん。犯人たちは未知のウイルスを作り出し、多くの人を恐怖に陥れている。今回の病気を治すには、入手が困難な二つの植物を手に入れなければならない。一つはエルブ地方の森の中に生えているデザントクスィカフィーヌ。それはなぜか、今までとは別の場所に移動させられていた。そして二つ目は、グラソン地方の決められた洞窟の中でしか採取することのできない、オーランピドール。そこには、その幻の花を守るために雪男たちが住んでいる。デザントクスィカフィーヌを見つけられても、彼らを突破してオーランピドールを入手するのは至難の業……。恐らく、犯人はそう考えたんだろうね」
透花はここで一度言葉を区切ると、どこか自信に満ちたような笑みを浮かべる。
「でも、犯人には誤算があったね。まず一つ目は、大和くんと美海ちゃんが私たちと一緒に暮らしていたこと。理玖という植物に詳しい医者がいたおかげで、感染ルートから解毒方法まで迅速に解明されてしまった。そして二つ目は、柊平さんがオーランピドールの生息地について知っていたこと。湊人くんの情報網にも引っかからないんだから、普通はここまで辿り着くことなんてできないよ。まあ他にも、デザントクスィカフィーヌを移動させただけで焼失させなかったことや、山守さん口を止めしなかったこととか色々あるんだけれどね。大きかったのは、やっぱり二人の存在だと思うよ」
「……別に、これが仕事だから」
「本当に偶然ですので、そのように隊長に褒めていただくようなことでは……」
口ではそう言いながらも、二人はどこか嬉しそうだ。
「解毒薬を作って、雪男たちの凶暴化の謎を解いて王都に帰ろう。全員無事に、だからね」
「……わかってる」
「……かしこまりました」
三人は、次の洞窟に辿り着いた。
その奥からは、聞いたことのない動物の泣き声が響いてくる。
「……ここみたいだね。二人とも、準備はいい?」
「……ああ」
「……はい」
透花と理玖と柊平は、どこまで続くかわからない深い穴に足を踏み入れたのだった――――――――――。