幻の花の守り人
「……私が洞窟に行った時は、雪男などいなかったはずだが」
山守の発言に、柊平が疑問を呈した。
彼が洞窟で見つけたのは、氷の中で美しく咲き誇る花のみだったからだ。
「あんた、あの洞窟に行ったことがあるのか!?」
「……ああ。かなり昔の話だが」
「っつーことは、まだ子どもだったんじゃねーか?」
「……そうだが、それが関係しているのか」
「雪男たちは、子どもには寛容なんだ。大人が行くと、自分たちの大切な花を奪いに来たと思い全力で襲い掛かってくる。だけど、子どもが来ると隠れちまって姿を現さないんだ。まあ、あんな所に行こうと思って行けるような子どもはいねーからな。大方お前も、迷子とかになって偶然辿り着いたんじゃないか?」
「……ああ」
「困ってる子どもには危害を加えないんだよ。かといって、手助けもしないけどな。あんたらの中に一人でも子どもがいればまだ可能性もあったが、まあ諦めた方が賢明だな」
そう言うと、山守はマグカップに入っている烏龍茶を飲み干す。
どうやら、彼の話はこれで終わりのようだ。
「貴重な情報を教えていただき、ありがとうございました。何かお礼をさせてください」
「お礼!? 儂は、そんなもんが欲しくてあんたらに話をしたわけじゃ……!」
「はい、それはわかっています。でも、情報だけではなく温かい飲み物に、ゆっくりと休憩できる場所まで提供していただきました。あなたに出会わなければ、私たちは洞窟に着くまでに息絶えていたかもしれません。ですので、ぜひお礼をさせてください」
透花の言葉に、山守は頭を悩ませる。
だが、すぐに何かを思い付いたような表情になった。
「……なんでもいいのか?」
「はい。すぐには用意できないかもしれませんが、必ずこちらに届けますので」
「……儂は、物なんかいらん。あんたらをただ者ではないと見込んで、一つお願いがある」
「なんでしょう?」
「……最近、雪男たちの様子が変わっちまったんだ。その原因を究明してもらえねーか!?」
山守の瞳は、まるで旧友を失ったかのような悲哀に満ちていた――――――――――。