少し昔の話
「うめー! あんなスカスカの冷蔵庫から、こんな料理が作れるなんて信じらんねぇ! 久々の手料理の味だ……!」
「喜んでもらえてよかったです。食べ終わったら食材の買い出しに行って、夜はもっと豪華なものを作りましょうね」
無事に掃除と洗濯を終えた二人は、綺麗になった部屋で昼食をとっていた。
それは冷蔵庫の中にあったありあわせの材料で晴久が作ったものだったが、雅紀のお気に召したようだ。
「雅紀くんは、何か嫌いなものってありますか?」
「いや、ねえよ。母ちゃんが好き嫌いせずに食えってうるさかったからさ。晴久はなんかあんの?」
「僕もありませんよ。確かに小曾根さんは、そういうの厳しそうですね。わかりました。では、簡単な料理から始めましょう。今日の夕飯は、カレーを一緒に作るというのはどうですか?」
「お! いいじゃん! 俺カレー大好き!」
「それならよかったです」
すっかり打ち解けた二人は、お互いを下の名前で呼び合うようになっていた。
雅紀の口から飛び出す言葉からは、すっかり敬語も抜けている。
会話の内容は料理から雅紀のクラブチームの話に移り、晴久の話になった。
「晴久って、所属してる隊の台所を任されてるんだろ? やっぱ軍人ってたくさん食うの? 毎日すっげー量のご飯を用意してるイメージなんだけど」
「そうですね。育ち盛りの若い子たちはよく食べますよ。あとは、体を鍛えてる方もお腹が空くみたいです。でも、食にこだわりがあってあまり量を食べない人も数人いますね」
「そうなのか。でも、全員分の食事を晴久が用意してるんだよな?」
「はい。昔は部屋で食べたり、外食で済ませたりと僕のご飯を食べてくれないことも多かったんですが、今は全員で食事をとる日も大分増えてきましたよ」
「そんな奴らを、どうやって食事の場所まで引きずり出したのか気になるんだけど!」
「特に面白い話ではないと思いますが……」
「いいじゃんいいじゃん! 聞かせてよ!」
「わかりました。まずは……」
晴久は思い出を慈しむかのような表情で、過去の一色隊の食事事情について話し始めた。