あの時と同じ面子。あの時と違う空気。
「全て、幻聴に幻覚だったということか……?」
「……この森には、人間を惑わせようとする悪い植物もいるんだ」
「先程の薬は……」
「……そういう症状を抑えるものだ。味はともかく、よく効いたはずだけど」
「……ああ。すまない、助かった。恩に着る」
森の中を流れる川までやって来た三人は、休憩がてら先刻の植物について話していた。
「しかし、なぜ私だけ……」
「理玖と私は、この森で暮らしたことがあるからね。最初は私にも、色々なものが見えたり聞こえたりしていたよ。でも少しずつ、彼女たちに惑わされることはなくなっていったなぁ。きっと、耐性がついたんだろうね。今日はなんの声も聞こえなかったから」
「そう、ですか……」
理玖が森で暮らしていたことは知っていた。
だが、透花もそうだったという事実に驚きを隠せない。
彼女の立ち居振る舞いは、どこから見ても高貴な身分そのものだからだ。
「柊平さんのことを気にしないで進んじゃってごめんね」
「……いえ、春原だけではなく、隊長も森を歩くことに慣れているのに納得がいきました。それにしても、以前来た時はこのようなことはなかったはずですが……」
「……今回は、運が悪かった。彼女たちは気まぐれだから」
「そうか……。森を歩くのに、何かコツなどがあれば教えてもらえないか? 私はどうしても、二人のようにスムーズに進むことができないのだが……」
「……そんなものないよ。これは、ただの慣れだ」
「……わかった。足手まといにならないようについていくしかないな」
「……ここから先は、そこまで植物も多くないから平気だと思うけど」
会話を交わす二人を、透花は笑顔で見守っていた。
それに気付いた理玖が、彼女に怪訝な目を向ける。
「……ちょっと。その眼、なに」
「柊平さんと一緒に、理玖の家を訪ねた時のことを思い出していただけだよ。あの時は二人とも、本当に険悪な雰囲気だったから。帰りの空気が重くて、どうしようかと思っていたんよ。……でも、二人とも変わったね。今日の電車の中もあの日と同じように無言だったけど、比べ物にならないくらい空気が軽かった。何より、自主的に会話をするようになったもん」
柊平と理玖は一瞬だけ視線を合わせたが、すぐに逸らしてしまう。
改めて言われると、バツが悪くて仕方がないのだ。
「……無駄口を叩いてる暇があるなら、そろそろ行くよ。もう休憩はいいだろう」
「はーい。柊平さん、大丈夫?」
「……はい、大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」
こうして休憩を終えた三人は、デザントクスィカフィーヌの生息地に向かうのだった――――――――――。