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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第三十五話 オーランピドールの雫を飲み干して
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あの時と同じ面子。あの時と違う空気。

「全て、幻聴に幻覚だったということか……?」

「……この森には、人間を惑わせようとする悪い植物もいるんだ」

「先程の薬は……」

「……そういう症状を抑えるものだ。味はともかく、よく効いたはずだけど」

「……ああ。すまない、助かった。恩に着る」


 森の中を流れる川までやって来た三人は、休憩がてら先刻の植物について話していた。


「しかし、なぜ私だけ……」

「理玖と私は、この森で暮らしたことがあるからね。最初は私にも、色々なものが見えたり聞こえたりしていたよ。でも少しずつ、彼女たちに惑わされることはなくなっていったなぁ。きっと、耐性がついたんだろうね。今日はなんの声も聞こえなかったから」

「そう、ですか……」


 理玖が森で暮らしていたことは知っていた。

 だが、透花もそうだったという事実に驚きを隠せない。

 彼女の立ち居振る舞いは、どこから見ても高貴な身分そのものだからだ。


「柊平さんのことを気にしないで進んじゃってごめんね」

「……いえ、春原だけではなく、隊長も森を歩くことに慣れているのに納得がいきました。それにしても、以前来た時はこのようなことはなかったはずですが……」

「……今回は、運が悪かった。彼女たちは気まぐれだから」

「そうか……。森を歩くのに、何かコツなどがあれば教えてもらえないか? 私はどうしても、二人のようにスムーズに進むことができないのだが……」

「……そんなものないよ。これは、ただの慣れだ」

「……わかった。足手まといにならないようについていくしかないな」

「……ここから先は、そこまで植物も多くないから平気だと思うけど」


 会話を交わす二人を、透花は笑顔で見守っていた。

 それに気付いた理玖が、彼女に怪訝な目を向ける。


「……ちょっと。その眼、なに」

「柊平さんと一緒に、理玖の家を訪ねた時のことを思い出していただけだよ。あの時は二人とも、本当に険悪な雰囲気だったから。帰りの空気が重くて、どうしようかと思っていたんよ。……でも、二人とも変わったね。今日の電車の中もあの日と同じように無言だったけど、比べ物にならないくらい空気が軽かった。何より、自主的に会話をするようになったもん」


 柊平と理玖は一瞬だけ視線を合わせたが、すぐに逸らしてしまう。

 改めて言われると、バツが悪くて仕方がないのだ。


「……無駄口を叩いてる暇があるなら、そろそろ行くよ。もう休憩はいいだろう」

「はーい。柊平さん、大丈夫?」

「……はい、大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」


 こうして休憩を終えた三人は、デザントクスィカフィーヌの生息地に向かうのだった――――――――――。

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