氷の中で咲き誇る花
「では、これまでにわかったことを話します。まずは理玖から」
「……今回の発症は、仕組まれたものである可能性が高い。なぜなら……」
それから一時間もしない内に全員が帰宅した。
現在は、今後の対策会議の真っ最中というわけである。
理玖は、今回の感染ルート、そして解毒方法について説明した。
「……というわけで、二つの植物を探しに行かなきゃならない」
「俺が行く!」
「僕も……。あんな美海、辛そうで見てられないよ……」
理玖の話を聞き、真っ先に名乗りを上げたのは蒼一朗と心だ。
自分の弟と妹が苦しい思いをしているのだ。
居ても立っても居られないのだろう。
「二人とも、落ち着いて。この話にはまだ続きがあるの」
「……デザントクスィカフィーヌの所在はわかっている。だけど、オーランピドールは幻の花と呼ばれているものだ。……見た目や扱う方法は判明しているけど、生息地についてはグラソン地方のどこかという情報以外ない。……捜索は、困難を極めると思う」
「湊人くん、何かデータはあるかな?」
透花に話を振られた湊人は、何かをキーボードに打ち込みながら答えた。
「……本当に幻の花みたいだね。いくら検索しても、何の情報も引っかからないよ。あっ、残念なお知らせならあるよ。グラソンは一年を通してとても寒い地域だ。雪も降り続いているし、雪崩も頻発する。どこにあるかわからない花を探すなら人手が必要だけど、あまり大人数で行けば命を失うことになりかねないんじゃないかなぁ」
「湊人くん、ありがとう。そういうことなら、今回は少人数で任務に挑まなきゃならないね。私も含めて、三人が限度って感じかな」
「俺は絶対に行く! このままここでじっとしてるなんてできねーよ……!」
「僕も……。寒さにも、怪我にも強いから……」
湊人の話を聞いても、蒼一朗と心の覚悟は揺るがないようだった。
「……待って。今回は僕が行かなきゃならない」
二人の言葉を遮ったのは、意外にも理玖だった。
「デザなんとかの場所は、教えてもらえれば俺たちで探せるぞ」
「理玖さんが怪我したら、薬を作る人がいなくなっちゃうよ……」
「……そうじゃない。オーランピドールという花は、氷の中で咲き誇っているらしい。そして解毒のために必要なのは、その氷を溶かした水の方だ。……だけどその氷は、水になってしばらくしたら効力を失ってしまう。これが、幻の花と言われる所以の一つだ」
この言葉を聞き、皆が驚いている。
その中で、一人だけ違った表情を見せる人物がいた。
「……だから、採取したその場で調合して薬にする。効力を失う前に薬にすれば、それは永続性を持つらしい。……これが、僕が行かなきゃならない理由だよ」
「じゃあ、一人は理玖にお願いします。あと一人は、二人のどちらかにお願いしようかな」
「……隊長、申し訳ありません。少しよろしいでしょうか?」
これまで沈黙を守っていた人物が、口を開いた。
それは、先程皆とは違う表情を見せていた柊平である。
「うん。柊平さん、どうしたの?」
「……春原に聞きたいことがある。その花というのは、氷漬けになっているのだな」
「……そうだけど」
「……もしかしてそれは、大小の白い花弁で形成された星型のような花ではないか」
「……どうして知ってるの」
柊平の発言に、今度は理玖が衝撃を受ける番だった――――――――――。