好青年の実態
(遂に来てしまいました……!)
今日が、晴久の初めての個人任務の初日である。
緊張した面持ちで、聞いていた住所のマンションの一室の呼び鈴を鳴らす。
「はーい!」
扉を開けて出てきた男は、テレビでよく見る小曾根雅紀そのものだった。
「こんにちは。初めまして。遠野晴久と申します。今日からしばらくの間、よろしくお願いします」
「いやいや、それはこっちのセリフなんで! 母ちゃんから話は聞いてます。俺と同じくらいの歳で、すっげー手際がよくて料理のうまい奴が来てくれるって。俺、料理を含めて家事はマジで何もできないんで、色々教えてください!」
爽やかにそう言った雅紀は、テレビで見た通りの好青年のようだ。
しかし彼の部屋からは、なんとも言えない臭いが漂ってくる。
「この臭いは……」
「あ、やっぱり臭いますかね? とりあえず上がってください。そうすればこの臭いの理由もわかると思うんで……」
雅紀に促され部屋に上がった晴久の目に飛び込んできたのは、なんとも男らしく様々なものが散乱した部屋だった。
食べ終わった市販の弁当のゴミなどもあるが、一番強烈な臭いを放っているのは練習時に使用し洗濯されていないジャージや靴下のようだ。
「すんません、汚くて……」
気まずそうに雅紀が言う。
晴久は一瞬面食らったものの、すぐにいつもの穏やかな口調で話し出した。
「いえ、大丈夫ですよ。こんなこともあろうかと、色々掃除用品も買ってきましたから。まずは掃除と、洗濯をしましょう。そうすれば、臭いも気にならなくなりますよ。両方が終わったら、何かご飯を作りますね」
「ういっす! 俺は何をしたらいいですか!?」
「では、ゴミをこの袋に入れていってください。こちらのジャージや靴下は、全部洗濯しても大丈夫ですか?」
「はい!」
こうして男二人がかりで、部屋の掃除が始まったのだった。