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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第三十四話 羽衣草を持っていくよ
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猛毒草、プワゾモルティージュ

(まさか、こんなことが……。ありえない……)


 大和と美海から採取した体液を調べた結果、とあるウイルスが発見された。

 それを更に詳しく分析すると、とある植物が関連していることがわかったのだ。


(プワゾモルティージュって、毒草じゃないか……)


 その植物の名を、プワゾモルティージュという。

 それは、エルブという地方の限られた場所にしか生息しないものだった。

 プワゾモルティージュの茎には、多量の毒が含まれている。

 だが、植物そのものに毒をまき散らすような能力はなかった。

 人の手が加わらない限り、このような事態が引き起こされることは絶対にないのだ。


(誰かがこの毒を抽出して、多くの人が吸い込むように仕込んだのか……。一体、どうやって……? なんのために……? そして、誰がこんなことを可能にしたというんだ……?)


 プワゾモルティージュは、毒性が強いため扱いが難しいのだ。

 普通の人間が、易々と行えるようなことではない。


「……理玖さん、少しいいですか?」


 理玖の部屋の扉が、控えめな声と一緒に叩かれた。

 声の主は、晴久である。


「……なに」

「今日は朝ご飯も昼ご飯も食べていないので、軽食を作ってきたのですが……」


 病気の原因特定に熱中するあまり、食事をとることを忘れていたのだ。

 時計を見ると、既に午後三時になっている。

 食事をしていないことを意識すると、突然お腹が空いてきたように感じる。


「……入って」

「はい。失礼しますね」


 野菜をたくさん挟んだサンドイッチと紅茶を持った晴久が、部屋に入ってくる。


「これでも食べて少し休憩してください。根の詰め過ぎは体に毒だと思いますので」

「……そうだね。貰うよ」

「はい。大和くんと美海ちゃんも、昨日の夜よりは元気になったみたいですよ。朝、少しだけ果物を食べました。この調子で、早くよくなるといいんですが……」


 晴久の言葉を聞き、おしぼりで手を拭いていた理玖の動きが止まる。


「……君、二人の部屋に入ったの」

「はい。喉が渇くだろうと思いまして。あっ、ちゃんとマスクをして行きましたよ!」

「……体はなんともないの」

「この通り、元気です」

「そう……」


 理玖は、紅茶を口に含みながら考える。


(二人の部屋に入ったのが朝ということは、既に数時間は経ってるはず……。昨日の二人がプワゾモルティージュを吸い込み発症するまでの時間くらいは、過ぎたんじゃないかな……。この毒に潜伏期間があったとしても……)


 晴久は、屋敷で最も免疫力が低いのだ。

 マスクをしていたとはいえ、彼が発症していないところを見ると――――――――――。


(……空気感染の線は薄いのかもしれない)


 紅茶が入ったカップを持ったまま、理玖は考え込んでしまう。

 理玖の邪魔をしないように、晴久は静かに部屋を出ようとした。

 そんな晴久に気付いた理玖は、彼の背中に声をかける。


「……サンドイッチ、ありがとう。食べ終わったら台所まで持って行くよ」

「……はい! 理玖さん、あまり無理はしないでくださいね」

「……ああ」


 晴久は、控えめな音を立てて部屋から出ていった。

 理玖はサンドイッチを食べながら、思考の海へと飛び込むのだった――――――――――。

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