そこは、確かに温かいのだ。
「戻るのが遅くなってしまい、申し訳ない!」
「いえ、お気になさらず。美海ちゃんと大和くんには会えましたか?」
「はい! ギターや将棋など、学校では見られない姿を見ることができてよかったです!」
「そう言っていただけると、こちらとしても来ていただいた甲斐がありますね」
透花と蒼一朗の待つ部屋へと戻った一太は、透花と言葉を交わす。
それから、今回の本来の目的について話し始めた。
「……先程、絵日記の登場人物が多かったのが家庭訪問のきっかけと言いましたが、それだけではないんです。ここから先は、お二人を不快にさせてしまうかもしれないのですが……」
「構いませんよ。どうぞ、話されてください」
「自分も、平気です」
「……ありがとうございます。では、お言葉に甘えて。あくまでも一教師として感じたことなのですが、大和くんと美海ちゃんは同年代の他の子どもたちと比べると、聞き分けが良すぎるところがあります。他人と一緒に暮らしていることは知っていたので、単純に心配になりました。普段からその人たちに気を遣っているから、学校でもみんなより大人びているのではないかと。そう思ったので、実際に二人が暮らしている家庭を見てみたくなりました」
「実際に見られて、どのように感じられましたか?」
ここで一太は、真面目な顔からいつもの笑顔に戻る。
そして、明るくこう言ったのだった。
「全て、私の勘違いだということがわかりました! 二人は、気を遣っているから聞き分けがいいんじゃない。心が満たされているから、あんな風にのびのびと過ごせるんですね!」
その言葉を聞き、透花は柔らかく微笑む。
蒼一朗も、どことなく嬉しそうだ。
「この家の中に、血の繋がった家族は少ないのかもしれません。でもここは、家族の温かさに満ちた素敵な場所です! 変な風に勘ぐってしまい、大変申し訳ない!」
そう言うと一太は、勢いよく頭を下げる。
「先生、頭を上げてください。謝られるようなことじゃありません」
「ですが……!」
「教師として、生徒のことを心配するのは当然です。むしろ私は嬉しく思っているんですよ」
「え……?」
透花の声に釣られ、一太は頭を上げる。
そこには、穏やかな笑みを浮かべる透花がいた。
「二人を心配して、わざわざ家まで来てくださったんです。そのように情熱的な方が、大和くんと美海ちゃんの先生でよかった。そう感じています」
「自分も、同じです。これからも、二人のことをよろしくお願いします」
「こっ、こちらこそ! 若輩者ですが精進いたしますので、改めてよろしくお願いします!」
こうして家庭訪問は、三人がお互いに頭を下げ合うという不思議な形で終わりを迎えたのだった――――――――――。