優雅なお茶会
とある日の午後を、透花は晴久と紅茶を飲みながら過ごしていた。
先程二人で作ったチョコチップスコーン付きという、優雅なお茶会である。
「ハルくん、最近体調はどう?」
「はい、お陰様で以前よりも大分よくなりました。理玖さんの薬のおかげですかね。調子が悪い時も、熱が出るくらいで済んでます」
「それならよかった。そんなハルくんに、個人で外部での任務をお願いしたいのだけれど」
「僕一人で屋敷の外でのお仕事、ですか……?」
透花の言葉を聞いた途端、晴久は不安そうな表情を浮かべる。
体の弱い彼は他の皆と同じような隊務をこなすのは難しいため、屋敷全般の家事をこなし、他の隊員たちの生活の支援をするのが主な仕事である。
元々料理が得意だったのでその知識と腕前を活かして栄養管理に務めていたのだが、最近は体調がよいので洗濯や掃除まで手が回るようになったらしい。
上記の理由から屋敷外での任務は、この間のお花見任務のような隊員全員が駆り出されるような時しか参加したことがない。
不安に思うのも、無理はないだろう。
「そんな不安そうな顔しないで、とりあえず話だけでも聞いてみない?」
「……はい」
いずれ屋敷外での個人任務に就いてみたいと思っていた晴久は、緊張した面持ちで頷く。
「軍の食堂で働いている女性で、小曾根さんっているじゃない?」
「はい。大らかで優しい方ですよね」
「その小曾根さんの息子さんってね、サッカー選手なんだって」
「もしかして、小曾根雅紀さんですか……?」
「そうだよ。ハルくん、知っていたんだ」
「はい。かっこよくて実力もあるから、今人気なんですよね。よくニュースなどで見るので、僕でも知ってます」
「その小曾根さんのところで、しばらく住み込みで働いてほしいんだよね」
「住み込みですか・・・?」
透花の話を要約すると、こうだ。
小曾根雅紀という、同世代の中でもずば抜けた実力を持つサッカー選手がいる。
加えて爽やかなルックスということもあり、ファンからの人気もとても高い。
そんな彼が、最近親元を離れて一人暮らしを始めたらしい。
だが、初めての生活になかなか慣れないらしく、最近サッカーの調子を落としているのだ。
「本当は小曾根さん本人が家に行って色々教えてあげたいらしいのだけれど、仕事もあるし、やっぱりお母さんに家事を教わるのって息子さん的には恥ずかしいみたい。それで、ハルくんなら小曾根さんも知っていて安心だから、是非住み込みで家事を教えてもらえないかって」
「そういうことだったんですね。わかりました。その任務、是非僕に受けさせてください」
「ありがとう、ハルくん。期間は一週間だから、その間にできるだけの家事を教えてあげてくれるかな。こっちのことは心配しないで! いつもハルくんに甘えているから、たまには自分たちで色々やるように話しておくからね」
「はい。しばらく留守にしますが、その間のことはよろしくお願いします」
家事を全くこなせない面子が一色隊にも数人いるので、自分がいない間に屋敷内が荒れてしまうのではないかという不安も残る。
だが、目の前の透花の柔らかな笑みを見ていると、その不安も、任務への緊張もどこかに飛んでいってしまうような気がするのだ。
こうして晴久の、サッカー選手宅での住み込み任務が決まったのだった。