靴下を運ぶ少年たち
「しんにい! はやてにい! おかえり!」
「………………………………!!」
「二人ともおかえりなさい。心くん、今日は早かったですね」
帰宅した心と颯を、美海、大和、晴久の三人が出迎えた。
「ん……。今日は、部活休みだったから……」
「偶然校門で会ったんで、一緒に帰ってきたっす! 途中で露店が出てて、なんと靴下が十一足で千円だったんすよ! 結構しっかりしたやつばっかだったんで、心と割り勘して全員に一つずつ選んできました! まずはこれ、美海ちゃんの分な!」
颯は袋からレースのついた靴下を取り出すと、それを美海に渡す。
「きゃー! すっごいかわいい! しんにい! はやてにい! ありがとう!」
「……うん」
「この間買ったワンピースに似合うと思うぜ! 大和くんは、こっち!」
次に颯が取り出したのは、踝が出るほど短い靴下だった。
「………………………………!!」
「こういうやつあんまり持ってなくて、欲しがってただろ?」
「寒くなる前に履いてね……」
大和は嬉しそうに笑う。
その笑顔から、とても喜んでいることが伝わってきた。
「晴久さんはこれっす! これから秋冬がくるんで、体冷やさないようにと思って!」
「あったか靴下……」
「わあ、ありがとうございます。大切に使わせてもらいますね」
晴久は柔らかな素材で出来たそれを、丁寧に受け取る。
「俺、他のみんなにも届けに行ってくる!」
「あっ、颯くん待って……」
走り去った颯を追おうとして、心は漸く一太の存在に気付いた。
「あ……。美海の、先生……?」
「こんにちは!」
「こんにちは……。僕、美海の兄です……」
「美海ちゃんのお兄さんでしたか! 担任の瀬尾一太と申します!」
「……兄の僕が言うのも変だけど、美海はいい子です。その、よろしくお願いします……」
それは、口下手な心なりの精一杯の言葉だった。
だが、不器用でも真っ直ぐな言葉は、人の心に届くものなのだ。
「はい! こちらこそよろしくお願いしますね、お兄さん!!」
一太の返事を聞き、心は小さくお辞儀をする。
そして、そのまま颯が走り去った方向へ駆けていった。
「……それでは、そろそろ戻りましょう」
「はい! 色々ありがとうございました!」
一太は、結果的にぱかお以外全ての住人と顔を合わせることに成功したのだ。
(美海ちゃんのお兄さんも、あんまり似てなかったな! いやいや、それよりも驚いたのははやてにいだ! マニキュアを塗ってくれたと書いてあったからもっとこう、女性っぽいイメージをしていたんだが……。実に活発そうな少年だった! そして、大和くんの将棋の師匠がみなとにいなんだな! うん、星についても詳しそうだ! メガネだし!)
このようなことを考えながら、透花と蒼一朗が待つ部屋への道を辿る。
他人同士が暮らしているというのに、どこからか漂ってくる温かな家族の空気を感じながら――――――――――。