増えていく嬉しい約束
大和と湊人は、将棋盤を挟んで向かい合っている。
一太と柊平が部屋に入ってきたことに気付いたのは、湊人だけだった。
湊人の会釈に、一太も軽く頭を下げ返す。
次の手を真剣に考えている大和は、二人がやって来たことに全く気付いていない。
その思考を邪魔しないように、一太は小声で柊平に話しかけた。
「大和くんは、将棋をよく指すんですか?」
「はい。ここ最近は、毎日誰かしらと指しています。外で遊ぶのも好きですが、性格的にこちらの方が落ち着くようです。彼と指している男が、将棋の師匠です」
「そうなんですね! 大和くんは強いんですか?」
「……そうですね。彼と同時期にルールを覚えた者が数名おりますが、彼らに負けることはほぼありません。あのくらいの年齢の子どもとしては、強いのではないでしょうか」
「それは立派だ! 私なんて、お恥ずかしいことにルールもよく知りません……」
ここで、大和が頭を下げる。
どうやら、勝敗が決したようだ。
「大和くん、先生が来てるよ」
湊人が大和に一太の存在を伝えると、彼はこちらに歩いてきた。
「大和くん、ホットケーキ美味かったぞ! ありがとうな!」
「………………………………♪」
大和は一太の服を引くと、将棋盤の方へと誘導しようとする。
「ん? もしかして、一緒にやろうってことか?」
一太の問い掛けに、大和はこくりと頷いた。
「大和くん、申し訳ない! 先生、将棋のルールを知らないんだ!」
「………………………………」
「勉強しておくから、ルールを覚えたら対戦しよう! 約束だ!」
そう言うと一太は、小指を立てる。
大和も控えめに自分の小指を絡ませると、二人は指切りをした。
約束をすると、大和は湊人の方へと戻っていく。
どうやら、もう一局指すようだ。
「……それでは、私たちも戻りましょう」
「はい! ありがとうございました!!」
一太が、柊平と一緒にリビングを出た瞬間――――――――――。
「ただいまーっす!!」
「……ただいま」
一色邸の玄関の扉が、元気よく開かれたのだった。
読んでくださっているみなさんのおかげで、無事に一周年を迎えることができました!
これからも、よろしくお願いいたします!!