肝っ玉母ちゃんじゃない!?
(そ、想像と全く違う……! 若い女の子じゃないか……!)
透花を見た瞬間に一太が思ったのは、そんなことだった。
子どもを預かっているということで、恰幅のよい中年の女性を思い描いていたのだ。
透花の見た目の美しさについては、特に何も思わないらしい。
人を美醜で判断しないのが、一太のいいところでもある。
(そして、隣に座っているのが大和くんのお兄さんか! うーん、似てないな!)
蒼一朗と大和は、体型や顔つきがあまり似ていない。
一太がこう思うのも仕方のないことだろう。
「瀬尾先生、こちらへどうぞ」
「あっ、はい! 失礼します!!」
透花に促され、一太はソファーへと座る。
「本日はご足労いただきありがとうございます。私、大和くんと美海ちゃんをお預かりしている家主の一色透花と申します。……ほら、蒼一朗さんも」
「あ、ああ。大和の兄の柏木蒼一朗です」
「二人の担任の、瀬尾一太と申します! こちらこそ突然申し訳ない!」
「今日は、学校での二人の様子を色々伺えたらなと思っています」
「はい。私も、二人が家庭でどのように過ごしているのかお聞きしたく……」
「………………………………」
一太は、蒼一朗の様子が気になって仕方なかった。
誰がどう見ても、明らかにそわそわしている。
「……蒼一朗さん、どうしたの? 落ち着かないなら、いつもの服でよかったのに」
「……いや、慣れないスーツのせいじゃねーよ。あの、先生……。聞いてもいいですか?」
「は、はい! なんでしょう!?」
「……学校で大和に何かあったんですか!?」
「「え!?」」
突然の発言に、透花と一太は驚きを隠せない。
だが、そんな二人の様子に構うことなく蒼一朗は言葉を続ける。
この男、歳の離れた弟のことがかわいくて仕方ないのだ。
「だって、こんな時期に急な家庭訪問なんておかしいじゃないですか! あいつが友達に何かするとは思えないから、その逆なんじゃないかって……。まさかイジメ!?」
「蒼一朗さん、落ち着いて」
「これが落ち着いてられるかよ!」
「あ、あの! 違います!」
誤解を解くために、一太は大きな声を出す。
「勘違いさせてしまったようで申し訳ない! 実は……」
そして家庭訪問するに至った経緯を、あえて本来の目的には触れずに説明した。
「……というわけで、絵日記の登場人物が多くてですね。いとこや親戚などの表記もなかったので、二人がどのような家庭で暮らしているのか気になり訪問させていただきました。大和くんは優しく落ち着いていて、美海ちゃんもみんなに頼られるしっかり者ですよ!」
「そ、うですか……。すみません、俺の勘違いで……」
「いえ! 私が誤解させてしまうような言動を取ったせいで……」
こうして、無事に誤解は解けたのだった。
「二人がどのような家庭で暮らしているか、ということですが、見ていただく方が早いかもしれませんね。恐らくもう少しで……」
透花がそう言ったところで、部屋の扉が元気にノックされる。
そして、明るい声が聞こえてきた。
「お茶とおやつをもってきたよ! 入ってもいいですか!?」
「はーい、どうぞ」
「しつれいします!」
透花が答えると、おやつを持った美海と大和が入ってくる。
その後ろには、飲み物を持ち控えめに微笑む晴久が立っていた。