不本意な勘違い×2
数日後の午後三時に、一太は一色邸を訪れていた。
電話で透花とのアポイントメントを取り付け、午前授業の日を利用してやって来たのだ。
(こ、ここが二人の家なのか……!? 豪邸じゃないか!!)
一色邸の佇まいに、一太は驚きを隠せない。
門前で戸惑っていると、庭で作業をしている人物の後ろ姿が目に入った。
(髪を結んでいて華奢だから、女性だな! あの人がお姉さんか?)
一太は大声で、その人物に声をかける。
「こんにちは! 大和くんと美海ちゃんの担任の瀬尾一太という者です! 家庭訪問に参りました! 二人のお姉さんという、一色透花さんでしょうか?」
「………………………………」
「あ、あの……?」
距離的に、一太の声が聞こえていないということはないはずだ。
だが、その人物は振り向くことも、問い掛けに答えることもしない。
一太が困惑していると、熊のような風貌の男が近付いてきた。
「春原先生! お客様だべ!」
「……聞こえてるよ」
熊のような男に話しかけられ、漸く口を開く。
(え……!? 声が、低い……!?)
髪を結った人物の発した声は、女性のものではなかった。
一太は、理玖の後ろ姿を女性と見間違えていたのだ。
「春原先生! 女の人に間違われたからって無視しちゃダメだべよ~!」
「……うるさいな。あまり無駄口ばかり叩いてると、給料減らすよ」
「そ、そんな殺生な!」
「……嫌なら、作業に戻って」
「わかったべ!」
理玖は面倒臭そうに一太の方を振り向く。
華奢ではあるが、その姿はどこからどう見ても男だ。
「も、申し訳ない! 男性の方でしたか!」
「……別に。彼女なら、家の中にいる。門の鍵は開いてるから勝手に入って。玄関に呼び鈴があるから、それを鳴らせば誰か出て来るから」
それだけ言うと、また作業に戻ってしまった。
「ありがとうございます! 本当に失礼しました!!」
理玖が既にこちらを向いていないにも関わらず、一太は理玖に深く頭を下げた。
それから、門を開けて敷地内に入る。
(ま、まさか男の人だったとは……! 二人の日記に書いてあった、お兄さんの一人か? どのお兄さんだ!? なんとなく星に詳しそうだし、みなとにいって人か……?)
まさかこんな不本意な勘違いをされているとは、理玖は夢にも思わないだろう。
一太は玄関に着くと、呼び鈴を鳴らした――――――――――。