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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第三十二話 ディモルフォセカな君が好き
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ふわふわだけどもふもふじゃない

 ぱかおが一色邸を出て行ってから、あっという間に一週間が過ぎた。

 皆は少しずつ彼のいない日常に慣れようとしているが、なかなか上手くいかないようだ。

 柊平は、車に乗りたがる小さな来訪者がいないことに物足りなさを感じていた。

 蒼一朗はぱかおの代わりに無機物を重りにしてトレーニングに励むも、温かさのなくなったそれに違和感があるようだ。

 一人で野菜を収穫する理玖は、以前よりもため息が増えた気がする。

 晴久は、うっかりぱかおの食事を用意し、慌ててそれを片付ける日々が続いていた。

 サロンのドアにノックではなくタックルをかますお客さんがいないことが、虹太は寂しくて堪らない。

 湊人は、返ってくることのない将棋の次の手を、ずっと待っているようだ。

 颯はぱかお専用の鋏を丁寧に手入れするが、それが使われる日は暫く来ないのだろう。

 透花は、バルコニーに出て何かを考えていることが増えた。

 ぱかおがいなくなったことによって、大和と美海は室内で遊ぶことが増えた。

 今まで屋敷の庭に響いていた賑やかな声は、いつの間にか失われてしまったのだ。

 心は、普段から物静かでぼーっとしているため、一見すると何も変わらなかった。

 だが、ぱかおがいなくなったことを誰よりも寂しく思っているのは心である。

 彼は、窓の外を見つめる時間が長くなった。

 決まって見つめているのは、自分とぱかおが出逢った森の方向だ。

 ぱかおがあの森で修業をしているかどうかは分からない。

 だが、何の手がかりもない心に出来ることといえばこれくらいなのだ。


「心ちゃーん、ちょっといい?」

「……うん」


 この日も、心は自室の窓から森のある方向を眺めていた。

 ドアがノックされ、虹太が入ってくる。

 彼の手には、大きなアルパカのぬいぐるみが抱えられていたのだ。


「これ、心ちゃんにあげる~」

「え……?」

「今日ゲーセンに行ったらたまたま見つけてさ。なんとなく、取らずにはいられなかったんだよね! その機械に入ってたやつ全部取っちゃったから、みんなにお裾分けしてるんだ~♪ だから、はい! 心ちゃんにも!」

「ありがとう……。ふわふわ……」

「でしょー! ぱかおの代わりになるとは思ってないけど、大切にしてやってよ☆」


 虹太は心にぬいぐるみを渡すと、部屋を出て行った。

 そのぬいぐるみは、ぱかおよりも大きく、毛の色は白だった。


(ふわふわで気持ちいい……。だけど、ぱかおの方がもっともふもふだよ……)


 心は、ぬいぐるみを抱き締めながらそんなことを思う。

 そこで、誰かに見られているような感覚に襲われた。

 視線を窓に向けると、二つの真ん丸な瞳がこちらを覗いていたのだった――――――――――。

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