残された時間を、君と
心が夜空を見上げたまま倒れ込んでいると、ぱかおの両親が近付いてきた。
(も、申し訳ありません……!)
(息子のせいで、お怪我を……!)
「……平気。……大きくなるための修業って、どれくらいかかるの?」
(……才能のある者で一年ほどですが、十年経っても上手く力を扱えない者もおります)
(私たちは、他の動物に比べると長寿ですので……)
「そっか……。ぱかおは、才能があるといいな……」
そこで心は、自分のすぐ横に人の足があることに気付く。
彼女は静かにしゃがむと、心の血が服に付いてしまうのも厭わずに優しく抱き締めた。
その表情を、心から見ることはできない。
だが、いつものように笑顔ではないことだけはわかった。
「……心くん。お疲れ様。とても立派だったよ」
「透花さん……」
「……でも、すごく心配した」
「ん……」
「心くんのこともぱかおのことも信じているけれど、それでも心配で仕方がなかった」
「ごめんなさい……」
「……ううん、いいの。本当に勇敢で、かっこよかったよ」
「うん……」
透花の顔を見たぱかおの両親が、何かに気付き大声を上げようとする。
(あ、あなた様はもしや……!)
(か……!)
透花は人差し指を自分の口の前に立てると、それを制した。
心がここにいるように、彼女にも何らかの事情があるのかもしれない。
透花の仕草でそれを察した二匹は、慌てて口を噤む。
「さぁ、屋敷の中に戻ろう。理玖に手当てをしてもらわないと」
「ん……。最近の僕、怪我してばっかり……」
「今日のは大怪我だから、さすがの理玖も驚くだろうなぁ」
透花に支えられ、心はなんとか立ち上がった。
しっかりとぱかおを抱えたまま、両親へと向き直る。
「……修業のために出発するの、少しだけ待ってもらえないかな? しばらく会えなくなっちゃうから、最後にぱかおを抱いて寝たいんだ。ぱかおのために、早く修業しなきゃいけないのはわかってるけど……。もしぱかおがまた暴走したら、僕がちゃんと止めるから……」
(……明日の夜明けまで、という条件でも構いませんか?)
(人目につく時間の移動は危険ですので……)
「うん。それで平気……。ありがとう……。じゃあ、ぱかおと一眠りさせてもらうね……。君たちは、どうする……? 部屋を用意して、そこで休んでもらうことは……」
「大丈夫。できるよ」
(いえ。お気になさらず)
(私たちは外で結構でございます)
「そう……?」
(はい。元々野生ですので、こちらの方が落ち着くのです)
(少しだけ、こちらの庭で休む許可をいただけますか?)
「透花さん……。二人が、夜明けまで庭で休みたいって言ってるんだけど……」
「もちろん。この庭でよければ喜んで」
(では、少しだけ場所をお借りいたします)
(夜明けに息子を迎えに参りますので、部屋の窓を開けておいてくださると助かります)
「わかった……。じゃあ、また後で……」
「心くん。大丈夫? 辛いなら、ぱかおは私が運ぼうか?」
「ううん、平気……」
透花に支えられたまま、心は屋敷の中へと戻っていく。
体はふらつくが、決してぱかおを手放そうとはしなかった。
その姿は、ぱかおの体温を少しでも長く感じていたいとでも言っているようだ。
理玖に治療されている最中も、それは変わらなかった。
怪我の手当てを終え部屋に戻った心は、ぱかおの毛に顔を埋めながら短い休息を取ったのだった――――――――――。