表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第四話 群生するヒヤシンス
35/780

勝ちたい気持ちがあれば理由はなんでもいいんだ

 蒼一朗と恵輔は、二人で帰路に着いていた。

 恵輔から食事に誘われたのだが、夕飯を弟の大和と一緒に屋敷で食べる約束をしていた蒼一朗は、それを断った。

 すると恵輔は、帰り道にあった自動販売機で缶ジュースを買って渡してくれたのだ。

 二人は今、それを口にしながら歩いている。


「一つ、聞いてもいいかな?」

「なんすか?」

「どうして急に、入部してくれる気になったの? 案内を終えた時までは、全然そんな雰囲気じゃなかったのに」

「あー、それはなんつーか……」


 蒼一朗は頭を掻きながら答える。


「……俺、どうしても走りで勝ちたい人がいるんすよ。今はまだ、負けてばっかりで。その人と部長さんのフォームが似てて、一緒に練習すれば何か掴めるような気がしたんす。……自分勝手な理由ですんません」

「謝らないでよ。理由はどうあれ、入部してくれたことが嬉しいから。そっか、そうだったんだね。だから僕に勝負を申し込んできたと」

「……うす。部長さんは、なんで駅伝部に?」

「うん?」

「こう言ったら失礼かもしれないんすけど、あんまり運動する雰囲気がないっつーか……」

「ああ、そういうことね。うーんと……」


 恵輔は困ったように眉を下げると、話し出した。


「僕は通信兵なんだけど、これは僕が望んでいた部隊じゃないんだよ」

「……はあ」

「かっこつけるのも性に合わないから言っちゃうけど、適性試験で失敗してね。自分が希望する部隊に入れなかったんだ。通信兵も、もちろん楽しいよ。だけどやっぱりこれは、僕のやりたいことじゃないから異隊したくて。でも、軍の異隊に対する規律は結構厳しくてね。そのためには、誰からも認められるような功績が必要だそうだ」

「……それが、都市対抗駅伝での優勝ってことすか?」

「うん。元々走るのは好きだったから。……でも、自分の欲求のために走りを利用するなんて汚いよね」

「そうすか? 俺はそうは思いませんけど」


 あっけらかんと言い放った蒼一朗に、恵輔は驚きを隠せない。


「目的のために手段を選ばないのって、普通のことだと思いますよ。俺だって、自分が速くなるために駅伝部の練習を利用しようとしてますし。それに……」

「なんだい?」

「俺は今日一日の部長さんしか知らないすけど、走るのが好きっていうのめちゃくちゃ伝わってきました。部の雰囲気がいいのも、部長さんのそういう気持ちがみんなに伝わってるんだろうなって」

「……柏木くん、それは褒め過ぎだよ」

「そうすかね? 練習中に他の部員の人に聞いたんすけど、前の部長が辞めた時に、みんなの推薦で部長に決まったんすよね。みんなも、俺と同じように感じてるからだと思いますよ」

「……なんだか照れちゃうなぁ」

「俺、嘘とかお世辞とか言わないんで全部本音っすから。……何はともあれ、明日からよろしくお願いします。優勝しましょう」

「……うん! ありがとう。君みたいな大型新人が入ってくれて本当に嬉しいんだ。こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」


 二人はその後も、様々な話をしながら歩く。

 お互いの声以外ほとんど何も聞こえない静かな帰り道で、飲み終えた缶ジュースをゴミ箱に捨てる音はひどく響いた――――――――――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ