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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第三十二話 ディモルフォセカな君が好き
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いつもと違うメンバーで

「……どういうことだよ」


 呆然として言葉が出ない心の代わりに、蒼一朗が口を開く。


「……ホームシックによる夢遊病」


 それに答えたのは、湊人ではなく理玖だった。


「僕も同じ意見ですよ、春原さん。病気については医者であるあなたの方が詳しいでしょうから、代わりに説明してもらえますか?」

「……有名な児童文学作品にあっただろう。山から都会に連れて来られた少女が、故郷に戻りたいという強い帰宅願望に駆られ、無意識の内に夜な夜な屋敷を徘徊してしまうという話が。もしかしたら、彼も……」

「……森に帰りたくて、ぱかおは毎日この家を出て行ってるってこと?」


 心の問い掛けに答える者はいない。

 全員の間に、沈黙が流れる。

 しばらく続いた静寂を破ったのは、優しい声だった。


「まだ、そうと決まったわけじゃないよ。だって、本当に帰りたいならもうとっくにぱかおはいなくなっていると思うから。でも、ぱかおは毎日絶対にこの家に戻ってくる。……森に帰りたいという想いと、ここで暮らしたいという気持ちの両方があるんじゃないかな」


 透花はそう言うと、柔らかく微笑んだ。

 それだけで、辺りの空気も優しくなるのだ。


「……それにしても、ぱかおが毎回引き返してくる地点ってここからかなり遠いよね」

「僕もそれが不思議なんだよねぇ。あの短い足じゃ、どれだけ速く走ってもこんな場所まで行くことは計算上不可能なのに……」

「場所が分かってるなら、先回りしてみればいーんじゃない?」


 虹太はそう言うと、へらっと笑った。

 その笑顔は、透花と同様に見ているだけでなんとなく安心できるものだ。

 本人は、全く意識していないだろうが。


「今晩、その場所で待ってみよーよ! 実際に見れば、何かわかるかもしれないし☆」

「虹太くんの言う通りだね。じゃあ、メンバーは……」

「透花さん、僕、行きたい……」


 心は、俯きながら手を上げた。

 高校生である自分が夜中に出歩くのはよくないことだと、もちろんわかっている。

 だが、大親友であるぱかおが森に戻りたがっているかもしれないのに、この屋敷でただ待つだけというのはどうしてもできなかった。


「……そうだね。明日は休みだし。いいよ、心くん。一緒に行こう」

「俺も! 俺も行きたいっす!」

「はいはーい! 俺も~!」

「あの、僕も……!」


 次々に手を上げたのは、颯、虹太、晴久である。

 あまり、ぱかおの追跡に関われていない三人だ。


「俺も明日休みっすから! たまには役に立たせてください!」

「いや~、真夜中の任務ってちょっとドキドキしちゃうよね♪」

「最近は体調もいいですし……。柊平さんと蒼一朗さんは、今日は寝てください」


 それぞれ、考えていることはバラバラのようだが。

 そんな姿を見て、透花は笑みを零す。


「じゃあ、心くん、颯くん、虹太くん、晴久くん、そして私の五人で行こう。運転は私がします。それ以外の人は、今晩は留守番です。柊平さんと蒼一朗さんは、特によく休んでね」

「……かしこまりました」

「へいへい。先回りするだけなら何も起こんねーと思うけど、気を付けろよ」

「ありがとう。湊人くんと理玖も、ちゃんと寝てね。外には出ていないけれど、二人がぱかおのために睡眠時間を削ってくれているのはわかっているから」


 実際にぱかおを追いかけるのは、透花、柊平、蒼一朗の役目だった。

 だが、湊人はデータの解析を行い、理玖はぱかおが怪我をして戻ってきた時にすぐに治療できるように起きているため、ここ最近はあまり深い眠りに就けていない。

 そんな二人の様子を、透花は全てお見通しなのだ。


「……なんのこと? 最近ハマってるネトゲのイベント期間だっただけなんだけどなぁ」

「……新しい薬の調合を試してるだけだよ」


 素直じゃないところも、なんともこの二人らしい。


「うん、そういうことにしておくね。よし、じゃあ準備をしたら出発するよー!」

「……うん」

「うっす!!」

「いえーい☆」

「は、はい……!」


 こうして五人は、ぱかおが毎晩引き返す地点に先回りすることになったのだった――――――――――。

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