桜色のわっか
夜になると、透花が心の部屋を訪ねてきた。
「心くん、これ」
「なに……?」
透花が差し出したのは、ピンク色の輪っかだった。
大きさ的に、ぱかおの首輪だろうか。
「うん。湊人くんにお願いして作ってもらった、発信機付きの首輪だよ。これを付ければ、もしぱかおがどこかに行ってしまっても場所が分かるから」
「ん……」
心はそれを受け取ると、寝ているぱかおの首に巻く。
ぱかおは普段、首輪を付けてはいない。
一人でどこかに出歩くということは、今まではなかったからだ。
「もしかしたら今日も、ぱかおは夜中にこの屋敷を出て行くかもしれない。気付かなかっただけで、今までもそうだったのかも……。一番辛いのは心くんだと思うけれど、捜索は私や柊平さん、蒼一朗さんたちに任せてもらえないかな」
「え……? なんで……?」
「真夜中に高校生を出歩かせるわけにはいかないからね」
「でも……」
その提案に、心はすぐさま頷くことができなかった。
ぱかおのことを誰よりも心配しているのは、心なのだ。
屋敷でただ待っているだけというのは、あまりにも酷な話である。
「夜はちゃんと寝ないと。学校に行けなくなっちゃうよ」
「………………………………」
「ぱかおが元気になった時に、自分のせいで心くんが学校を休んだって知ったらどう思うかな? 私は、悲しむと思う」
「うん……。僕も、そう思うよ……」
心は、特別頭がいいというわけではないし、勉強が好きなわけでもない。
だが、故郷では学校へ通うことが出来ず、教育を受ける権利すら与えられなかった。
なので、王都に来て普通に高校へ通えるのがとても嬉しいことなのだ。
学校は楽しいという話を、心はいつもぱかおにしていた。
その楽しみを自分が奪ったとなれば、ぱかおは間違いなく悲しむだろう。
「……透花さん。ぱかおのこと、よろしくお願いします」
「任せて。何か変わったことがあれば、すぐに心くんに報告するからね」
「……ありがとう」
「いえいえ。じゃあ、今日はもう寝た方がいいよ。昨日はほとんど眠れなかったでしょう?」
「ん……」
「ゆっくり休んでね。おやすみなさい」
「おやすみなさい……」
透花は心の頭を優しく一撫ですると、部屋を出て行った。
(寝たく、ない……。でも、寝なきゃ……)
心は昨日と同じようにぱかおを抱くと、ベッドに横になる。
すると、昨晩はほとんど眠れなかったのですぐに眠気が襲ってきた。
そのまま目を閉じると、朝までぐっすりと眠ったのだった――――――――――。