何もかもが変わっていく
心が一色邸へ戻ったのは、午前四時のことだ。
寝ているところを起こされ不機嫌な理玖に足の手当てをしてもらうと、部屋に向かった。
ぱかおは、何事もなかったかのようにベッドの上で眠っている。
(……明日は休みだ。ちゃんと話さないと……)
心はそれから、一睡もせずにぱかおのことを見守った。
午前十時頃に目を覚ますと、すごい勢いで部屋を出て行ってしまう。
相変わらず、心のことを見ようともしない。
「ぱかお、待って……!」
心は、急いでその後ろ姿を追いかける。
ぱかおが向かったのは、キッチンのようだ。
外に出ようとしたのではないことに安堵しながら、心も足を踏み入れる。
そこには、晴久に食事をねだるように体をこすりつけているぱかおがいた。
「ぱかおくん、おはようございます。すぐにご飯を用意しますね」
そう言って晴久が用意したのは、以前の五倍はあるであろう量の食事だった。
ぱかおは一心不乱にそれを貪っている。
その姿は、まさに野生動物そのものだ。
(ちょっと前までは食事を楽しんでたのに……。ぱかお、ほんとにどうしちゃったの……?)
そんなぱかおを見て、心がショックを受けないはずがなかった。
その様子を察した晴久が、静かに心に声をかける。
「……最近、いつもこうなんですよ」
その声は、どことなく悲しそうだ。
「……前は、言葉がわからなくても美味しいって声が聞こえたような気がしていたんです。でも、最近のぱかおくんは生きるために食べているって感じで……」
「毎日、こんな量を食べてるの……?」
「……はい。体が心配になって量を減らしてみたら、吠えられてしまって……」
「晴久さん、ごめんなさい……」
「心くんが謝ることじゃないですよ。もしかしたら今までも、量が少なかったのを我慢していたのかもしれませんし。あっ、心くんは朝ご飯どうしますか?」
「……ぱかおと一緒に食べる」
「わかりました。では用意しますね」
心はその後、ぱかおの様子を見守りながら遅めの朝食をとった。
ぱかおの食事がもうすぐ終わろうという時に、急にその体がふらつき始める。
「ぱかお……? 大丈夫……?」
心の声を聞いたぱかおがこちらを向き、久しぶりに二人の視線がぶつかる。
その瞳には、以前のような光が灯されていなかった。
「シ、ン……。オ、レ……」
それだけ言うと、皿に突っ伏してしまう。
穏やかな寝息が聞こえるので、どうやら眠っているようだ。
(……ほんとに、食べ終わったらすぐ寝ちゃうんだ。これじゃあ話ができないよ……)
数日ぶりに、自分の声に耳を傾けてくれたことはもちろん嬉しい。
しかし、根本的な解決方法は見つからないままだ。
心は一人分の朝食を胃に収めると、ぱかおを抱き上げ部屋に戻る。
その日は何もせずにずっとぱかおを撫でて過ごしたが、彼が目を覚ますことはなかった――――――――――。