真夜中の鬼ごっこ
(ん……? なんの音……?)
心は、何かを揺らす音によって目覚めた。
抱いて寝たはずのぱかおが、いつの間にか自分の腕の中からいなくなっている。
目を擦りながらなんとか起き上がると、再び心の耳に音が届いた。
――――――――――カタン。
「ぱかお……?」
その音は、窓際にいるぱかおによって引き起こされたものだった。
鍵に向かって、短い腕を必死に伸ばしている。
まさか、鍵を開けようとしているのだろうか。
「ぱかお、どうしたの……?」
心の声が聞こえていないのか、ぱかおは振り返らなかった。
「あっ、ぱかお……! 待って……! どこ行くの……!」
ぱかおは鍵を開けると、窓の外に飛び出していった。
そのまま、音もなく芝生に着地する。
心も追いかけようとするが、彼の部屋は三階にあるのだ。
いくら体が丈夫だからとはいえ、この高さを飛び下りることはできない。
その間に、ぱかおはすごいスピードで庭を駆け抜けていく。
そして、生垣を飛び越え一色邸の敷地外に出てしまった。
「ぱかお……!」
心は急いで部屋を出ると、一階の玄関へと向かう。
あまりにも焦っていたので、足を踏み外し階段から転げ落ちてしまった。
その音を聞きつけた透花が、部屋から出て来る。
「心くん、どうしたの……!?」
「ぱかおが、どこかに行っちゃった……!」
「え……?」
「追いかけないと……!」
「あっ、待って!」
透花の制止の言葉も聞かずに、心は走り出す。
恐らく、階段から落ちた時に捻ってしまったのだろう。
足首に微かな痛みが広がったが、それでも足は止めない。
心はそのまま、靴を履くことも忘れ裸足で屋敷の外に出る。
そして、ぱかおが消えた方向へ全速力で向かうのだった――――――――――。