銀色の化け物
「なあなあ! 知ってるか!?」
「急にどうしたんだよ」
「最近この王都にさ、化け物が出るって噂があるんだって!」
「あっ! 俺、それ聞いたことあるぜ!」
それは、授業の間にある短い休み時間のことだった。
数人の生徒が集まり、何やら噂話をしている。
席が近かったため、それは自然と心の耳にも入ってきた。
「化け物ぉ!? なんだよそれ!」
「そいつは、夜になると突然現れるらしいんだ……」
「そ、それで……!? どんなことをしてくる化け物なんだ……!?」
「いや、それが何もしないんだってさ」
「……は?」
「すげーデカい銀色の物体が、猛スピードで王都を走り回ってるらしい」
「動きが速すぎて、映像に収められたりできないって言われてるよな」
「……別に何もしてこないなら、化け物でもなんでもなくね?」
「いやいや、正体不明なんだから化け物でもいいだろ!」
「俺が思うにあれはさ……」
話は、その化け物の正体を推測する方向に進んでいく。
次の授業の準備をしながら耳を傾けていた心の胸が、少しだけざわついた。
(銀色の化け物……。……ううん、そんなはずない。ぱかおはすごく小さいし……)
嫌な予感を振り払うように首を横に振ったところで、授業開始のチャイムが鳴る。
次の科目の教師が、教室に入ってきた。
(最近授業に集中できてないから、ちゃんと聞かないと……)
ぱかおの様子が変わってから、心は勉強に身が入らなくなってしまった。
自分でも意識しない内に、ぱかおのことを考えてしまうのだ。
普段からぼーっとしているので、その違いを友達や教師には気付かれていないのだが。
(……今日は部活が休みだから、いつもよりも早く帰れる。ぱかおが起きてて、久しぶりに話ができるといいな……)
そんなことを考えながら、心は教科書を開く。
なんとか集中しようと鉛筆を握ると、黒板の内容を書き写していくのだった――――――――――。